本研究ではDy2Ti2O7やHo2Ti2O7などスピンアイスに対する希釈効果を調べると共に他のフラストレートスピン系の特に磁化過程に見られる磁化のジャンプと残留エントロピーのピーク形成の関係を調べた。 希釈効果の研究分野では近年スピンアイスの希土類元素を非磁性元素 Yで置換した物質Dy(2-2x)Y(2x)Ti2O7やHo(2-2x)Y(2x)Ti2O7が合成され調べられており、特に残留エントロピーの希釈濃度(x)依存性に注目が集まっている.我々はモンテカルロ法を用い希釈スピンアイスを調べた.同時にベーテ近似の一種である伏見カクタス近似を用いて幾つかの熱力学量に対する解析的な結果を導いた.我々は、それらを数値計算結果と比較することで温度および希釈濃度に依らず極めて良い一致を見出した.特に残留エントロピーの希釈濃度依存性は実験的にも観測されておりその結果とも良い一致が得られ、パイロクロア磁性体に対するベーテ近似の有効性を確認することができた.更に帯磁率の計算からキュリー定数がxの増加に伴い2から1へと変化する様子も捉えられており希釈により協力的常磁性状態から通常の磁性状態へクロスオーバーすることも明らかになった. もう一つの希釈磁性体の研究ではスピンアイスを含むフラストレートスピン系(三角格子とカゴメ格子上の反強磁性イジング模型)の基底状態における磁化過程を調べた.これらの模型では磁化プラトーがジャンプするクロスオーバー磁場にて残留エントロピーがシャープなピークを示す現象が知られているが、我々はWang-Landau法を用いそれらを精密に測定した.我々は結論の1つとして希釈スピンアイスは[111]方向の磁場に対して5つの磁化プラトー領域を持ち、これに対応して5つのクロスオーバー磁場にて残留エントロピーがピーク構造を持つことを見いたした.
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