研究課題/領域番号 |
26400400
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
丸山 耕司 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 客員准教授 (00425646)
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研究分担者 |
加藤 豪 日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所, メディア情報研究部, 主任研究員 (20396188)
尾張 正樹 日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所, メディア情報研究部, 研究主任 (80723444)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 数理物理 / 量子制御 / 量子コンピュータ / 量子システム同定 |
研究実績の概要 |
多体量子系を自在に制御するための知見と技術の獲得は、量子情報処理の実現のみならず、ナノテクノロジーの発展や化学反応制御に及ぶ広い領域において大きなブレイクスルーをもたらすものと期待されている。しかし最大の課題は、そのダイナミクスの複雑さとノイズ(デコヒーレンス)の抑制にある。こうした制約・条件を強引につぶすのではなく、いかに限られた制御パラメータやアクセスで、ダイナミクスを決定するシステムパラメータを同定し、そして制御を施すかを明らかにするための理論的研究を行う。 26年度には、アクセスが多体系の一部自由度に限られたときの、系を特徴付けるパラメータ同定法に関し大きな前進を得た。すなわち、アクセスが許されない大きな部分系について有限次元性以外の予備知識を仮定せずとも、系のハミルトニアンを同定するための物理的手段が存在することを見出した。また、系へのアクセスが限定されることにより、完全に同一の観測可能ダイナミクスをもたらす複数の(必ずしもユニタリー同値でさえない)ハミルトニアンと初期状態の組(同値類)が存在することを示した。同値性により観測不可能なダイナミクスの差はまったく見えず、したがって大きな系が限定アクセスを通して制御可能であることを明らかにした。 さらに一般的視点から、限定アクセスにより誘起される全系ヒルベルト空間の構造についても明らかにしつつある。これは上記同値類や、制御可能空間の系統立った理解を助け、量子制御の一般論構築に向け重要な示唆を与えるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般的状況下での量子多体系の同定問題に対し、有用な結果を得ることができ、さらに限定アクセスによって必然的に引き起こされる全ヒルベルト空間内の観測・制御可能空間の構造が見えてきた。こうした知見は、エラー訂正の可能性を検討したり、具体的な制御法を議論したりする上で必須のものである。興味深い新たな問題も現れており、量子制御理論分野をより発展させる上でも意義のある研究を実行できていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
物理系について予備知識が実質的にない条件のもとで、系のハミルトニアン、状態を同定することが可能なこと、限定アクセスによるヒルベルト空間への構造誘起が分かったことは大きい。しかし、これによりさらに新たな疑問がわいてくる。たとえば、初期状態準備に関する「制御」可能性(=能動的状態準備)や、制御に必要な時間についての条件、「制御不可能な部分空間」の積極的利用の可能性、無限次元空間の制御可能性、などである。これらは、量子制御理論の一般論構築を目指す大枠の中では概ね当初計画の趣旨に沿うものではあるが、各論としては新たに現れた重要な問題であり、これらも適宜研究課題として取り組んでいく予定である。
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