研究課題/領域番号 |
26400402
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
鈴木 正 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (30391999)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | クエンチダイナミクス / 量子相転移 / スケーリング / 乱れた系 |
研究実績の概要 |
平成27年度は本研究課題に関連する実績として、原著論文4本を出版し、学会発表を3回(うち国際会議招待講演1回)行い、その他セミナー発表を何回か行った。 まず前年度末に投稿していた不連続量子臨界点近傍のクエンチダイナミクスについての論文は、8月に正式に出版された。また、前年度から投稿準備を進めていた層状の乱れを含んだ六角格子イジング模型に関する論文については、7月に投稿し、10月にオンライン出版された。 27年度には、新たにロシュミットエコーと呼ばれる量に見出される動的相転移という現象についても研究を行った。この現象は、系のパラメターを変化させることに伴うロシュミットエコーの時間発展がある時刻で特異性を持つ、というものであり、一種のクエンチダイナミクスに伴う現象である。研究代表者と共同研究者は、密度行列繰り込み群という数値的手法を用いて解析的には調べることのできない模型を調べ、動的相転移に関して新たな知見を得た。その結果は9月に出版された。 クエンチダイナミクスに関して、研究代表者は共同研究者とともに、量子クエンチに伴う1スピンのデコヒーレンス(コヒーレンスの消失)に関する研究も行った。これは、スピン多体系の環境と結合した1スピンを考え、始めにそれぞれが独立な純粋状態にあったとして、スピン多体系が量子クエンチされた時に1スピンと多スピン系がどのように混合状態を作るか、を明らかにするものである。研究代表者たちはデコヒーレンス因子と呼ばれる量が従う普遍的なスケーリング則を見出した。その結果は1月に出版された。 ところで、上記の成果は六角格子イジング模型を除いて乱れのない系に関するものである。本課題のテーマに含まれる乱れた系のグリフィス特異性に関しては、数値実験を行っており、予備的な結果を国際会議で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では26年度中に有限温度の古典系、27年度に絶対零度の量子系についてクエンチダイナミクスと静的特性を結びつける予定であったが、27年度末の時点で両者を結びつけるまでには至っていない。その理由は、当初本研究課題は乱れた系をターゲットとしていたにもかかわらず、乱れのない系のクエンチダイナミクスについて先に調べる必要性が生じたからである。そのことに気づいたのは、26年度に本プロジェクトの一環として開催した研究会においてインド工科大学カンプールのA. Dutta博士と議論を行ったからである。27年度には彼らとの共同研究を行い、3本の共著論文が出版された。それらは乱れのない系に関するものであるが、予想を超える成果をあげることができたと思っている。 乱れのある系については、26年度に行った古典系の静的特性に関する研究が27年度に出版された。これについては計画通りである。一方、古典系・量子系のクエンチダイナミクスの数値実験は必ずしも計画通り進んでいない。乱れのない系の研究は収束に向かっているので、28年度は遅れを取り戻すように乱れのある系に焦点を当てたいと考えている。 以上のように、多少計画から外れたところで予想以上の成果をあげたことと、計画通り進んでいない点があることを勘案し、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
乱れのある系のクエンチダイナミクスと静的特性を結びつけることを目的として、(1)2次元古典系のクエンチダイナミクスおよび(2)絶対零度1次元量子系のクエンチダイナミクスの数値実験を行う。(1)については古典モンテカルロ法を用いて難なく実施することが可能である。(2)については自由フェルミオン系に変換できる模型を扱い、数値的に時間依存ボゴリューボフ・ドジャン方程式(つまりシュレーディンガー方程式)を解くことで実施する。それにより乱れのある古典系と量子系で、クエンチダイナミクスにグリフィス特異性の痕跡を見出す。 ところで、本研究課題と密接に関連がある量子アニーリングが、研究計画時の予想をはるかに超える勢いで注目を集める度合いを増している。量子アニーリングは本来絶対零度の量子系のクエンチダイナミクスを利用した最適化法であるが、現在、温度の効果を議論する必要性が認識されている。研究代表者は上記の(2)の数値実験を改良することで、労力を最小限に抑えつつ有限温度の効果を調べるつもりである。 本研究課題が関係する別の話題として多体局在がある。多体局在はそれぞれの粒子が感じる系の乱れと粒子間相互作用がある時に、クエンチダイナミクスに特徴的に現れる現象である。この現象は海外で大きな注目を集めている。そのため、これについても本プロジェクトの一環として、温度の効果に注目して主に数値的に研究を行う。 量子アニーリングと多体局在については、研究の発展が著しいため、上記の(1)と(2)と同等かそれ以上の優先度で取り組む必要がある。 最後に、乱れのない系のクエンチダイナミクスで起こる動的相転移について、27年度中に行った研究を28年度中に論文にまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画では27年度にICTP(イタリア)へ出張する予定であったが、次年度に当地で行われる国際会議に招待されることになったため、27年度中の出張を取りやめた。次年度使用額が生じたのはそのためである。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度に予定されているICTP(イタリア)への出張旅費はすでに請求済みであるので、ここで生じた次年度使用額は物品費に充てる。
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