研究課題/領域番号 |
26400405
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
香取 眞理 中央大学, 理工学部, 教授 (60202016)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 可積分確率過程 / 行列式過程 / 行列式点過程 / マルチンゲール / 時空相関関数 / 整関数 / 共形不変性 |
研究実績の概要 |
古典可積分系と量子可積分系に加えて、最近、可積分確率過程の研究の重要性が広く論じられるようになってきた。可積分確率過程の典型例として行列式過程がある。一般に多粒子系において n-粒子相関関数を計算するためには、着目する n 粒子以外の粒子の運動を記述する変数について多重積分を実行する必要がある。強く相互作用する系においては、そのような多重積分を解析的に実行することは困難であるが、これが可能であり、任意の時空相関関数を行列式の形で明示的にあたえることが出来る系が行列式過程である。時刻を指定した上で得られる空間的な相関関数が行列式で与えられる系を行列式点過程という。行列式点過程は、可積分系としては自由フェルミオン系に他ならず、その可積分構造はよく知られている。行列式過程は、この行列式点過程を拡張し、非平衡ダイナミクスを記述できるようにしたものである。 本研究は、この行列式過程の非平衡ダイナミクスを解明することを目標とする。平成28年度には二つの進展があった。 (1)行列式過程の時空相関関数は、2つの時空点の関数である時空相関核によって完全に指定される。さらに、この時空相関核は、行列式マルチンゲールと我々が命名した確率過程を与える行列の成分を用いて表現される。この行列の成分はそれぞれマルチンゲールを与える関数であるが、複素ブラウン運動の共形不変性の議論から、それらは整関数の積分変換で与えられることが示される。そこで問題は、整関数の列の選び方に帰着される。これまで、有理関数や三角関数を用いてきたが、楕円関数で表される整関数を考え、新しいタイプの行列式過程を定式化することができた。 (2)整関数を初期値の情報によって定められるラグランジュ補間関数と見なすことができる。このことより、非平衡行列式過程の平衡行列式過程への緩和現象を統一的に議論することが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
相互作用ポテンシャルや時空相関核、さらには時空相関関数が楕円関数(正確にはヤコビのテータ関数やその対数微分)で表される行列式過程は、アフィン・ルート系の分類に対応して系統化できることに気が付いた。例外群を除くと7つのルート系が考えられるが、そのうちの A 型の解析を終え、論文として発表した。他の6つのルート系に対して、この A 型は特別な性質があり、その研究に予想以上に時間がかかってしまった。ただ、その経験に基づき、他の6つのルート系に対応する行列式過程の構成と解析は順調に進むことが予想される。研究の進捗状況はおおむね順調であると言えるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
ごく最近になり、A 型以外の6つのアフィン・ルート系に対応した行列式過程が、A 型よりも系統的に構成できることが分かった。この知見をもとに、楕円関数レベルの行列式過程の時空相関関数の構造と確率微分方程式による表現についての研究を進め、早々に結果をまとめる予定である。 非平衡行列式過程から平衡行列式過程への緩和現象は、特に無限粒子極限においては、一般に遅い緩和過程として実現されることが予想され、興味深い。しかし、これまでは特別な初期配置に対してしか厳密解を得ることができなかった。しかし、平成28年度に、我々の理論で中心的な役割をする整関数を補間関数で展開するという方法に気が付いたことから、より一般的な初期配置に対して緩和過程を議論することが可能になった。行列式過程の相互作用のパターンと緩和過程との対応を詳しく研究し、行列式過程の可積分性を大いに活用して、強く相互作用する無限粒子系の非平衡ダイナミクスの特徴を明らかにしたい。 数学の観点からみると、有理関数で記述される確率過程模型から、楕円関数で記述される模型への拡張は、q-拡張、さらには楕円関数拡張といった方向に従った研究と見なすことができる。この研究の流れをより包括的にとらえ、ランダムウォークやブラウン運動で代表される確率過程論そのものの q-拡張、さらには楕円関数拡張を研究していきたいと考えている。 行列式過程という可積分確率過程の研究は、ランダム行列理論に関連して発展してきた。近年、可積分系と関連の深い新たなランダム行列理論が提唱されている。確率論、確率解析の立場から、改めてランダム行列理論の進展を見てみたい。
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