研究課題/領域番号 |
26400411
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研究機関 | 豊田工業大学 |
研究代表者 |
高野 健一 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00197112)
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研究分担者 |
佐野 和博 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40201537)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ホールの運動 / モット絶縁体 / 強相関 / 長岡強磁性 / 量子リング |
研究実績の概要 |
モット絶縁体にホールをドープしたモデルとして,1次元 t1-t2-J1-J2 模型のhalf-filled bandから1個の電子を取り除いた場合を検討した.以前の研究で,数値対角化法により基底状態の相図は求めてあり,その中で S=1 相では,電子スピン2つがトリプレットとなり,ホールと共に束縛状態(複合粒子)を形成することがわかっている.今回は,この相図中の S = 2, 3, 4, … の一連の狭い相を調べたところ,システムサイズを大きくした極限で有限に残ることが判明した.相関関数により状態を調べた結果,これらの相には,ホールと4個以上の電子の強磁性的な複合粒子が形成されていることがわかった.これらすべての束縛状態の原因は,長岡強磁性の効果が,ホールの近くで局所的に起こっているとして説明できる. スピンがそろった複数の電子とホールの複合粒子の形成は,ホールのまわりで電子のスピンがそろうとエネルギーが低下することによって起こる.このような現象は,より単純化された状況として,量子リング中で2電子のスピンがそろう現象としても現れることに気が付いた.半導体中にナノスケールの量子リングを作成し,その中に2電子を閉じ込めた状況を理論的に解析した.この系はある程度電子間の相互作用が強いとトリプレットになる.この系の特徴として,リング全体に磁場をかけ,磁場の強さを増加させていくとシングレットとトリプレットが交互に現れ振動することもわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画作成時点では想定していなかった進展あるいは発見があった. その1つは,1次元 t1-t2-J1-J2 模型のhalf-filled bandから1個の電子を取り除いた場合の基底状態の相図において,S = 2, 3, 4, … の一連の狭い相が数値対角化のために採用した少数系に起因するサイズ効果ではないことがわかったことである.これは重大な事実なので,詳しく調べて,S = 1 の場合よりも大きいがやはり束縛状態であることを確認した. もう一つは,ナノスケールの量子リング中の2電子のスピンがそろうという一見無関係に見える現象の原因が, t1-t2-J1-J2 模型にホールとトリプレット電子ペアの束縛状態ができるという現象と共通であることを見いだしたことである. 26年度はこれらの現象の確定に時間を費やした.結果については,物理学会で発表して,論文を執筆中である.この点では,計画以上に進展したと言える.一方で,当初計画していたホールを導入する前のモット絶縁体である様々な量子スピン系を調べることは余裕がなく行っていない.研究全体としては,順調と考えてよいと思われる.
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今後の研究の推進方策 |
1次元 t1-t2-J1-J2 模型のhalf-filled bandから1個の電子を取り除いた場合の基底状態の相図において,S = 1, 2, 3, 4, … の相に形成されている束縛状態の性質を詳しく調べる.手法としては数値対角化の方法を継続して用いるのと,新たに束縛状態を表す変分波動関数を構成することを行いたい.共通の原因と思われる,ナノスケールの量子リング中の2電子のスピンがそろう現象については,他にも類似の現象がないかを調べたい. 一方で,当初計画していたホールを導入する前のモット絶縁体である様々な量子スピン系を調べることはさらに後回しにしたいと考えている.これは,モデルを変えることによって,ホールと電子の束縛状態が生じやすい条件を見いだしたり,束縛状態がどのくらい広い条件で生じるかを調べる目的の調査である.それよりも,見いだされた興味深い現象を深く掘り下げることを優先したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
購入したワークステーション(Fortranインストール済み)が若干安価であった.また,研究発表の旅費は,今年度は大学の経常研究費から支出した.その分をワークステーションの数値計算用ライブラリの購入に充てる予定であったが,ソフトの選定に時間がかかり次年度に購入することとした.
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次年度使用額の使用計画 |
ワークステーションの数値計算用ライブラリと外部記憶装置の購入に充てる予定である.
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