研究実績の概要 |
モット絶縁体に生ずるホールが周囲の電子スピンと束縛状態を形成することを数値的に調べた. 物質中で電子間に強い斥力が働く場合には,ちょうど半分まで電子バンドが詰まったときに絶縁状態となる(モット絶縁体).ここから,わずかに電子数を減らしたとき,減った分の電子の欠乏(ホール)がどのように振る舞うかが,この物質の電気伝導を決定する.このホールは,電子バンドが完全に詰まったときのバンド絶縁体中のホールとは全く異なる多体問題の概念である.このホールの性質を数値計算を用いて理論的に調べてきた.典型的な理論模型として,1次元及び2次元の t1-t2-J1-J2 模型を採用して詳細に検討してきた.今までの研究で,ホールとスピンが束縛した複合粒子として,スピンの大きさが2以上のものが生ずること,スピンの大きさが 1 のときと同様に一体となって複合粒子として運動すること,2つあると互いに斥力的であることなどがわかっている. 今年度は以下のことがわかった.(1) 1 ホールの場合,複合粒子の相(S=1, 2, 3, 4, ... )はシステム・サイズの外挿で生き残る.(2) 2 ホールの場合,相関関数などで調べた結果,S=1 の複合粒子が分離して 2 個ある相はシス テムサイズの外挿によって生き残る.(3) 2 ホールの場合,S が 2 以上の複合粒子が分離して 2 個ある相は存在しない.(4) 11 サイトに 1 ホールの場合と 22 サイトに 2 ホールの場合の対角化の結果から,ホールが有限密度 n のときの相図を推定した.この結果は,Prelovsek 等による,有効モデルに変換して解析した結果とおおむね合致する.
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