研究課題/領域番号 |
26400413
|
研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
大塚 雄一 独立行政法人理化学研究所, 計算科学研究機構, 研究員 (30390652)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 物性理論 / 強相関電子系 / 量子相転移 / 計算物理 / 量子モンテカルロ法 |
研究実績の概要 |
本課題で主たる研究手段として用いる基底状態に対する量子モンテカルロ計算コードの高度並列化を行った。最適化されたコードは京上で高度に最適化された線形代数ライブラリを有効的に活用することで、ノード単体性能において80%を超える高い実行性能を有するが確認された。また、モンテカルロ法の特性から、統計精度の向上のために超並列計算機のメリットを十分に生かすことが可能である。この量子モンテカルロ法のコードを用いて、本年度はディラック電子系におけるモット転移の臨界性の研究を行い、ハニカム格子およびπフラックス模型と呼ばれる格子模型上で定義されたハバード模型の基底状態相図を精密に決定することに成功した。同模型に関しては、ドイツおよび米国の研究チームがスピン液体相の存在を主張していたが、我々が行ったより大規模かつ高精度なシミュレーション計算の結果からはそのような相の存在は明確に否定され、半金属相から反強磁性モット絶縁相への直接かつ連続的な相転移であることが明らかとなった。さらに、このモット転移の臨界性を詳しく調べるために、有限サイズスケーリング解析を精密に行う事で臨界指数を決定する事に成功した。その結果、二つの異なる格子模型においてモット転移を特徴づける臨界指数は高い精度で一致しており、ディラック電子系におけるモット転移に普遍性クラスが存在することが明らかとなった。この普遍性クラスは場の理論の有効模型であるGross-Neveu模型で議論されていたchiral-Heisenbergクラスに相当するものであり、我々の結果は物性理論のみならず場の理論においても有効な知見を与えうるものと期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計算コードの高度化に関しては当初の予定通り進んでいる。特に、系のサイズが大きいほど計算の実行効率が高いため、京コンピュータ等の超並列計算機を十分研究に活用が出来ていることから順調に研究は進んでいる。本年度は研究系計画書に記した「A. ディラック電子系におけるモット転移の臨界性」の研究を進めたが、そこで述べられていた予備計算の結果よりもはるかに高精度で臨界指数を決定することに成功した。これにより、ディラック電子系におけるモット転移の普遍性に関して、高い確率でその存在を示すことができた。これは本課題で明らかにしたいと狙っていた主な問題であり、研究は順調に遂行されている。一方、計画書に述べたように、一般のbrick-wall格子においてt'/t-U/t平面で相図を作成するにはまだ至っていない。これはt'/tが0(ハニカム格子)や-1(πフラックス模型)など特殊な値である場合を除いては、ディラック点を有限なクラスタサイズにおいて許される波数に選ぶことが一般には出来ず、有限サイズスケーリングが困難となるためである。
|
今後の研究の推進方策 |
上記に記したように、ハニカム格子およびπフラックス模型以外の一般のbrick-wall格子模型に関して、臨界指数を高精度に計算する方法を模索する。ディラック点を許される波数に一致させるためには境界条件に位相ひねりを加えることなどが考えられるが、これにより対称性が低下するためシミュレーションにかかる時間(基底状態へ射影するための虚時間の長さ)が増加する事も予測されるため、慎重な予備計算が必要であると考えている。また、計算コードに関してもさらに改良を加えることを予定している。現在までの準備段階では、1ウォーカーを担当するMPIプロセスを複数にすることで、必要メモリ量に関する上限が緩和されることが確認されている。また、現段階では行列積(dgemm)部分に限定した並列化しか行っていないが、良好なストロングスケーリング性能を示すことが分かった。今後はこの方針の並列化を更に進めて行く予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
所属機関において設置する予定であったサーバルームの電力不足のため、導入予定であった計算機を購入する事が出来なかったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
サーバルームの状況が改善され次第、計算サーバを導入する。
|