研究課題/領域番号 |
26400413
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
大塚 雄一 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究機構, 研究員 (30390652)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 物性理論 / 強相関電子系 / 量子相転移 / 臨界現象 / 量子モンテカルロ法 / ディラック電子 |
研究実績の概要 |
ディラック電子系における相互作用誘起相転移に関して、臨界指数等の素性が未だ明らかとなっていないchiral-XY普遍性クラスについて引き続き研究を行った。大規模な量子モンテカルロ計算を京コンピュータ等のスーパーコンピュータ上で実行し得られた結果について、詳細な有限サイズスケーリング解析を行った。複数の物理量から独立に推定した臨界指数および臨界点には矛盾がなく、計算結果の妥当性が検証された。また、得られた臨界指数を先行研究との比較を行ったところ、グラフェンを念頭に置いて計算されている半金属からケクレ型のVBS的絶縁体転移の臨界指数と良い一致を示すことが明らかとなった。ケクレ転移はZ3対称性の破れを伴うもので、その意味ではU(1)対称性の破れに相当するchiral-XY普遍性クラスとは異なるはずであるが、繰り込み群に基づく議論から、量子臨界点直上でU(1)対称性が現れると予想されている[Li et al., Nature Communications (2017)]。本研究ではU(1)対称性そのものが破れる模型を扱っており、そこで得られた臨界指数がケクレ転移のそれとよく一致することは、この予想を強く支持する結果と捉えることができる。さらに、半金属相での電荷自由度に関する臨界指数を計算するため、1粒子グリーン関数の長距離での振る舞いから準粒子重みを計算する手法を提案した。 chiral-XY普遍性クラスに関する研究結果は論文にまとめ、現在Physical Review B誌に投稿中である。準粒子重みの計算手法については論文を執筆中である。また、本申請課題の前半に行ったchiral-Heisenberg普遍性クラスに関する結果は邦文解説記事として固体物理誌で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画書を作成した時点では、モット転移の臨界性に関して「何らかの普遍性が存在」する可能性としか念頭においていなかったが、その後の当該分野の進展により、モット転移に限らず、ディラック電子系の量子相転移には広く普遍性が存在し、それがGross-Neveu模型の文脈で理解されることが認識されるようになった。そこで、この研究の趨勢に鑑み、計画書に記した臨界性に関する部分での研究に注力することとした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において、ディラック電子系における量子相転移ではかなり相互作用の強い領域まで半金属相が存在することが明らかとなっている。そこで、物性基礎論的な観点からは、この強相関半金属相の素性を明らかにすることを計画している。具体的には、フェルミ液体論的な描像が相転移点まで有効であるのかを数値的に明らかにすることを目指す。一方、現実物質としてのグラフェン物性に関しては、最近の当該分野での状況を考慮し、スピンパイエルス歪みや長距離クーロン相互作用の影響を調べることを計画している。特に、最近、グラフェン中の電子の振る舞いを粘性流体として考える見方が浮上しており、この可能性について検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、本年度において2あるいは3台のノードならなる小規模計算機クラスタを導入予定であったが、新しいアーキテクチャのCPUであったため、性能評価を行う必要性から1台のみの購入としたため。 性能に問題ない事が確認されたので、追加ノードの購入を早急に行う予定である。
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