本研究は「光の超流動体」に形成される多様な散逸構造を見出すことを目的としている。これまで散逸構造は古典的な物理系が対象であり、散逸に弱いとされる量子系は考えられてこなかった。一方、最近精力的に研究されている励起子ポラリトン超流動体は、質量を獲得した光子が量子凝縮した、言わば光の超流動体であり、光子が絶えず系を出入りしている非平衡開放系である。本研究は、この新しい系が必然的に散逸し続ける量子系であることに着目し、量子流体と散逸構造という従来独立に発展してきた分野を融合し、「量子散逸構造」という新しい領域を切り拓くことを目指している。 今年度の研究では、励起子ポラリトン超流動体のダイナミクスに関して進展があった。自励振動と呼ばれる現象が古くから知られている。これは、エネルギー注入と散逸のある開放系において、自発的に振動が発生し持続する現象である。励起子ポラリトン凝縮体は注入と散逸のある非平衡開放系であるため、量子系において自励振動が発生する可能性があることに着目した。 様々なパラメータで数値計算を行った結果、局所的に励起された励起子ポラリトン凝縮体の波束が、対称性を破って自発的に回転運動をする、自励振動と呼べる現象を発見した。これは初期状態等に依らず位相空間中のある軌道に収束する運動であり、古典的な自励振動子に類似している。さらに回転する二つの凝縮体波束を適当な距離に近付けると同期現象が起こり、両波束の回転周波数と位相が揃うことを明らかにした。
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