研究課題/領域番号 |
26400416
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
渡辺 信一 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (60210902)
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研究分担者 |
中川 賢一 電気通信大学, 学内共同利用施設等, 教授 (90217670)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 極低温原子波束 / 光格子とトラップ場 / リドベルグ原子 / 量子もつれ / 量子シミュレーション |
研究実績の概要 |
H26年度はボゾン系を対象に詳しい研究を実施し、成果はPRAに掲載された。H27年度はフェルミオン系を対象にした研究を詳細にわたって実施した。フェルミオン系については、実験結果について解釈が不十分な点があることが分かった。特に、ホールの振幅は半古典的な見積もりに比べてかなり速い減衰が見られる。H27年度実施の研究の目的は、相互作用の充分小さな系を対象に、量子力学的に厳密な計算を行うことで、半古典計算の結果と実験の結果との差異を理解することにある。 さて、数年前に行われたハンブルグ大学グループの研究[Phys. Rev. Lett. 110, 085302 (2013)]では固体におけるphotoconductivityと類似の現象を光格子の振幅を変調させて実現した。これで基底バンドのフェルミ原子の一部は励起バンドへ遷移し、それによって基底バンドに発生したホールの振る舞いが詳細に研究された。実験論文によると、励起された波束の記述には相互作用項はほぼ寄与しないことが確認されている。そこで、偏極したフェルミ原子を考えると、Slater行列で表現された状態はこの系の厳密多粒子波動関数となる。この事実に基づき波動関数の時間発展を計算して、ホールの回帰性に関する実験結果を再現することに成功した。ただし、ホール密度の減衰率の問題は依然として残る。そこで、有限温度下の三次元系で、調和ポテンシャルに非線形の歪がある場合を想定して計算したが、結果は変わらなかった。論文はPRAで査読中である。 実験面では、空間位相変調器を用いて正方格子、三角格子、リングなどの任意の空間パターンで数10個のマイクロトラップアレーを作成して、これに冷却Rb原子を捕捉する方法 を開発した。トラップ中のRb原子をリドベルグ状態に励起して量子もつれ状態を実現するためのリドベルグ状態励起用周波数安定化レーザー光源を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通りにH26年度はボゾン系の振幅変調励起を、H27年度にはフェルミオン系の振幅変調励起を研究した。フェルミオン系については新しい視点から、対象とする系の厳密解を用いることができた。その表示の自然な拡張を行うことで、当初の1次元系の研究のみならず、3次元系の次元性や有限温度の効果も考慮することができた。基本的に半古典計算も厳密な量子計算も同様の結果を与えることから、実験に対する新しい課題が見えてきた。ボゾン系に関する成果は2015年にPRAに発表された。フェルミオン系についての成果はPRAへ投稿済みで現在査読中である。 また、干渉計の研究についてはリドベルグ原子を用いた量子シミュレーター実現に必要な実験系がほぼ完成した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果を踏まえて、量子系の具体的な操作や干渉計への応用を考える段階にきている。そこで、更なる操作の可能性として、2色のレーザーを用いた光格子によって、エネルギーバンド構造を操作することを考える。これによって、光格子振幅変調だけではアクセスできないバンド間の遷移を制御できるようになる。これによって発生する局在状態を座標および擬運動量の両空間において吟味していく。 干渉計の実験については、完成した実験系で量子シミュレーションを行う予定である。
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