研究課題/領域番号 |
26400418
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
豊田 健二 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (20314403)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イオントラップ / 量子情報 / レーザー冷却 / 量子シミュレーション / 量子計算 / 量子エレクトロニクス |
研究実績の概要 |
近年固体などの多体系の性質を他の量子系を用いてシミュレートすることに関する研究が注目されている。我々は、固体中の電子を記述するモデルのひな形と捉えられるようなJaynes-Cummings-Hubbard(JCH)模型の量子シミュレーションを、トラップされた多数個のイオンの系を用いて行うことを目指している。シミュレーションをより大規模なかたちで行うために、Jaynes-Cummings相互作用を引き起こさせるためのレッドサイドバンドパルスの強度を保ち、またイオン間隔を20um程度に保ちながらサイト数を増やしていくことが必要となる。このために光マルチアクセスシステムという、イオン鎖中のイオンに複数の光ビームを個別に照射するための光学系等を開発し、それを用いて実験を行った。最大で4個に照射できるシステムを構築し、現時点では3個のイオンに対してそれぞれキャリアラビ周波数300kHz程度を実現した。これを用いて3サイトのJCH模型の量子シミュレーションを行い、基底状態間(Atomic Mott InsulatorからPhonon Superfluid)の量子相転移を観測した。また、量子情報処理実験的な矩形パルス照射による操作を応用することにより、Polariton状態(ドレストアトム)をBare状態にマップする操作を行い、JCH模型を特徴づけるようなPolaritonic Mott InsulatorとPolaritonic Superfluid間の量子相転移に関する予備的な結果を得ることに成功した。 またフォノン系のマニピュレーションに関する実験として、リニアトラップの単一イオンの動径2方向間の結合を引き起こす実験を行った。トラップ電極に印加する電圧を連続的に変化させることで、x方向の振動モードに準備した熱的なフォノンを断熱的にy方向の振動モードに移送することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
JCH模型の量子シミュレーションに関しては、光マルチアクセスシステムによる実験がおおむね成功しており、さらにマイナーな改善を積み重ねることにより、4個まで拡張することは十分可能であると考えられる。また、光学系におけるビームの重ね合わせの方法を変更することで、光パワーのロスを低減させ5-8個に対応させることも可能であると考えられ、結果として個数に依存して相転移の急峻さが変化するようなサイズ効果の観測は十分視野に入れられると考えられる。 フォノンの操作に関しては、熱的な状態に関する実験が成功しているため、初期状態をフォック状態に変更して実験を行うことにより、フォック状態にあるフォノンの移送も十分可能であると予測される。
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今後の研究の推進方策 |
JCH模型の量子シミュレーションに関しては、上記のとおり、光学系の若干の変更により5-8個のイオンに対応させるような光学系の構築を目指す。それを用いて個数依存の効果の観測を目指す。また、MEMSミラーやSLM(Spatial Light Modulator)などの先端技術を応用することにより、より効率的に多ビーム化可能な光学系の構築を目指す。 フォノンの制御に関しては、上記のように、初期状態を純粋に量子的なフォック状態に準備して実験を行い、光子を用いた実験において可能であるような多モード間の結合をフォノン系において実現することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
H26年度は現有の機器、光学部品を用いて実験を行い、めどが立ったのちに新たな設備投資等を行うよう方針変更したため。
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次年度使用額の使用計画 |
MEMS, SLMなどの先端技術を用いた光マルチアクセスシステムの構築に向けてリサーチを行い、可能と判断した時点で設備投資を行う予定である。
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