研究課題/領域番号 |
26400420
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
立川 真樹 明治大学, 理工学部, 教授 (60201612)
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研究分担者 |
金本 理奈 明治大学, 理工学部, 准教授 (00382028)
小田島 仁司 明治大学, 理工学部, 教授 (50233557)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 熱放射 / 微粒子 / 光トラップ / 共振器QED |
研究実績の概要 |
白熱球などマクロな物体からの熱放射は、Planckの放射法則でよく記述できる。しかし、この法則が波長程度やそれ以下の発光体にも適用できるかどうかは自明ではない。物体が小さくなるにつれて熱放射のスペクトルはどのように変化するのか?これは物質と電磁波の相互作用に関わる基本的な問題であるが、微粒子を熱的に孤立させるのが困難なことから、実験による検証が行われてこなかった。そこで本研究では、光や交流電場により微粒子を空間捕捉するトラップ技術を用いて高温発光体を空中に静止させ、その熱放射スペクトルを観測する。放射体のサイズ・形状や物性が電磁波の放射過程にどのように関わってくるのか、これまで未踏であったミクロンおよびサブミクロン領域での熱放射のシナリオを解明することが、本研究の目的である。 2014年度は、アルミナ・ジルコニア・酸化チタンなどの微粒子の可視域のスペクトルを観測し、マイクロ共振器内の光強度に対するレート方程式モデルを導入して解析を行った。その結果、微粒子の熱放射の特徴として以下のことが明らかになった。(1) マクロな物体からの熱放射パワーの総量が放射体の表面積に比例するのに対し、ミクロンサイズの微粒子の場合には表面だけではなく内部の原子も放射に寄与するため、総放射量が放射体の体積に比例すること。(2) 光学的に厚くない微粒子の場合には、キルヒホッフの法則に従い熱放射強度が物質の消衰係数に依存すること。(3) 誘電体微粒子の場合には、放射体自体の共振モードで選択的に熱放射が起きる。このとき各モードの放射出力は、吸収による内部損失と外部への結合効率により決まり、インピーダンス整合した共振モードが選択的に放射されること。 一方、熱放射の遮断波長の存在を証明するために行った中赤外域のスペクトル計測については、分光システムの感度不足と光路調整の困難から未だ信号が得られていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画にあった中赤外域のスペクトル計測について、狭帯域フィルターを用いた測定を試みたものの、測定系の感度不足と光路調整の困難から、誘電体微粒子からの熱放射の信号を得ることができなかった。微粒子の微弱な信号を分光するためには、なるべく大きな立体角で放射光を捉える必要があり、既存の光学系に改良の余地があることが明らかになった。これを解決するために、回転可変フィルターを新たに導入した赤外分光計を自作し、再度10μm近辺のスペクトル計測に臨む所存である。 一方で理論モデルとの対比から、誘電体微粒子の熱放射過程の理解は格段に進んだといえる。スペクトル形状や絶対強度の詳細を再現し、観測スペクトルから高温液滴の光学定数を導出する新しい方法論の確立にもう一息のところまで来ている。 以上のように、計画テーマにより進捗状況は異なるが、初年度の研究はおおむね順調に推移したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度は、回転可変フィルターを内蔵した赤外分光計を製作し、誘電体微粒子の中赤外域のスペクトル計測から遮断波長の存在を確認する。さらに当初計画にあるように、金属微粒子の熱放射計測のために、イオントラップ装置の開発に着手する。ここで用いるPaulトラップは、一対のエンドキャップ電極とリング電極からなり、電極間に高周波四重極電場を発生して荷電粒子に復元力をもたらす。トラップ電極は真空槽内に設置し、低圧バッファガスとの衝突によって荷電粒子に減衰力を働かせる。 一方、微粒子の熱放射の力学効果について、海外の研究者から興味深い問題提起がなされている。通常、天体現象などで熱放射の力学効果を考えるときは、放射圧による斥力のみを問題とする。しかし、微小な放射体の近距離では勾配力によって引力が働く可能性がある。当初の計画にはなかったが、光トラップされた高温微粒子の周りに熱放射によってどのような力学場が発生するか、我々の実験系で検証するための手段を検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度経費で最も多くを費やすと予想されたのは、中赤外域の分光計測であった。単一微粒子からの微弱な熱放射信号を、検出感度の落ちる中赤外領域で分光した例は未だかつてなく、的確な実験方法を見極めたうえで、限られた経費を投入する必要があった。そこで、予備実験を繰り返し試行錯誤を重ねた結果、前述の回転型の可変フィルターを内蔵した赤外分光計の開発が必要であることが明らかになった。 以上のように、適切な実験手段の決定に時間を要したことが、初年度経費の支出が遅れた理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
主として赤外分光計の開発に必要な可変フィルターなどの光学素子、半導体検出器などの費用に使用する。
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