平成28年度では昆虫と植物の濡れ現象の研究において大きな問題の1つであるハスの葉の濡れ性について大きな進展があったのでここで述べる。ハスの葉の表面には大きな凹凸(基部の幅10um程度、高さ20um程度の凹凸が20um配列)の上に小さな凹凸(長さ1.7um程度、幅30nmの針状結晶が500um間隔で大きな凹凸表面に立って生えている)があるというダブルラフネス構造がある。超撥水性を発現するだけであれば、小さな凹凸を規則正しく表面に配列させればいいだけであり(シングルラフネス構造)、ダブルラフネス構造を形成する必要はない。このため、ハスの葉の表面にダブルラフネス構造がある必然性は理解されていなかった。これまで我々はジアリルエテンという紫外線および可視光の照射によって結晶構造が可逆的に変化する光応答性の有機化合物を用いて、シングルラフネス構造の超撥水表面の研究を行ってきた。今回の研究では光照射後の結晶育成温度と結晶育成時間を制御することにより、ダブルラフネス構造の作成に成功した。得られた構造は大きな凹凸(幅15um程度、高さ30um程度、間隔35um程度)の上に針状結晶(幅0.2um程度、高さ3um程度、間隔1um程度)が成長している構造である。ハスの葉と大きく異なるのは、針状結晶の角度である。大きな凹凸の表面の上に寝そべるように浅い角度で生えている。このような浅い角度であっても大きな凹凸があれば、液滴に対してほぼ垂直に立つ針状結晶を見出すことができる。つまり、我々が初めて大きな凹凸が針状結晶の配列の乱雑さを消去していることを見出した。さらにこのような針状結晶の長さと間隔からラプラス圧を計算することができ、ダブルラフネス構造が超撥水性を発揮するだけではなく、落下してくる雨粒もはじくことができる。研究成果はJACSに発表された。
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