研究課題/領域番号 |
26400425
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
古川 亮 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (20508139)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ソフトマター / アクティブマター / 流体力学的相互作用 / 微生物 |
研究実績の概要 |
自己推進性を有する代表的なアクティブマターである微生物系では、詳細釣り合いの破れという生体の能動性に根差した本質的な非平衡性により、従来の平衡系では見出しえない多様な集団運動や秩序構造が発現しうることが近年の実験的研究により明らかにされてきた。アクティブマター研究は未だ勃興期にあり、真に新しいパラダイムがありうるかという根源的な疑問に対する解答は現段階において判然としない。しかしながら、構成要素そのものが能動性を有するアクティブマターの新奇性は、ソフトマター物理の一研究分野という枠組みを超えて、非平衡物理や生物物理などの学際領域に展開する新しい学問分野を創出しうる可能性を十分に持つ。このような系で、流体力学的相互作用はその動的特性を理解する上で重要であることが期待されてきたが、その長距離性、多体性、非定常性といった本質的な困難さは数値計算によるアプローチすら困難にしてきた。 申請者は、近年発展したハイブリッドシミュレーション法のひとつ(FPD法)を用いることで、流体力学的相互作用に起因する困難を克服し、泳動メカニズムの基本的特性を備えたミニマルモデルの系統的な数値実験を通じて、集団運動におよぼす多体の流体効果を検討した:流体力学的相互作用がある場合、アクティブ粒子は相互に影響し合い、自己推進性そのものが強く影響を受ける。特に、(多くのバクテリアで見られる)双極子的な自己推進力を備えたアクティブ粒子系では、流体力学的相互作用による自己トラップにより、引力的なポテンシャル相互作用のない場合でも、過渡的な巨大構造形成が促進されうる。このような流体効果を反映したアクティブ粒子のモビリティは密度や泳動メカニズムに強く依存することも併せて示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は既存のモデルやアプローチにとらわれない研究を展開し、十分な成果を得ることができた(Physical Review E誌に掲載済み)。導入したミニマルモデルと、それを実装したシミュレーション手法は汎用的であり、今後の展開についても様々な方向性が期待できる。実際、この系における多彩な効果を既に確認しており、系統的な考察の上、27年度内の研究発表・論文公開を目指す。多少スピード感を持った取り組みを心掛けたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
バクテリア等の多くの微生物系は流体中に分散して存在しており、流体力学的相互作用は、微生物系の輸送・レオロジー特性を支配する重要な要因となりうることが従来から認識されてきた。この流体力学的相互作用が関与するアクティブマター研究として、以下の様な内容を考えている: (i) 微生物の集団運動を理解する物理研究の難しさは、流体力学的相互作用そのものに由来する困難さだけでなはない。準希薄~濃厚溶液のような、互いに近接した状況下では微生物の個性(運動メカニズム、形態)が相互作用の詳細に反映するという複雑さはアクティブマターの問題を一層困難にしている。そのため、微生物の泳動メカニズムが集団運動に及ぼす一般性・任意性の別は十分に理解されていない。現下の状況では、これをミニマルモデルの系統解析から抽出することが重要であると考える。 (ii)ハイブリッドシミュレーションの利点を生かし、微生物系のレオロジー・非線形応答、相分離現象など複雑な諸現象へと研究対象を拡張する。 (iii)流体効果を考慮したアクティブ粒子系の統計理論、応答理論の構築・提案も視野に入れる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果の進捗状況に鑑みて、海外研究者との共同研究、あるいは研究発表を平成26年度ではなくむしろ27年度に行った方が効果的であると考えたため。
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次年度使用額の使用計画 |
海外研究者との共同研究あるいは研究発表を目的とした海外出張旅費。また、そのために必要なノートパソコン、ハードディスクなどの物品購入費に充当する。
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