研究課題/領域番号 |
26400428
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
金 鋼 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (20442527)
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研究分担者 |
芝 隼人 東北大学, 金属材料研究所, 特任助教 (20549563)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ガラス転移 / 過冷却液体 / 分子シミュレーション / 動的不均一性 / ボンド切断法 / 4点相関関数 |
研究実績の概要 |
ガラス転移とは融点以下の過冷却状態で見られる液体からアモルファル状固体への転移であるが、通常の相転移現象とは異なり液体とガラスの構造を区別する秩序変数が存在せず、このことがガラス転移の本質的な理解を難しくしている最大の要因である。しかしながらガラス転移点近傍において出現する遅いダイナミクスにおいて、メソスケールにわたる動的不均一性と呼ばれる協調再配置運動が顕著となることから、この動的不均一性の発生メカニズムを理解することがガラス転移現象の本質であると考えられている。本研究課題では、1000万粒子数程度の大規模分子動力学シミュレーションをおこないミクロからメソスケールへガラス転移のスケール階層性の解明にチャレンジするものである。また2次元と3次元と系の次元性を系統的に変えることによって動的不均一性の本質を理解することを目指している。また解析手法として、ボンド切断法と4点相関関数法を用いて動的不均一性の相関長の評価をしている。本年度は、昨年度から引き続き動的性質の次元依存性に焦点を当て解析を進めた。その結果、ボンド切断法は協調再配置運動由来の感受率を検出できる一方で、4点相関関数法は振動モードの影響を受け動的不均一性の相関長を過大評価することを明らかにした。特に2次元系では大規模振動モードが長波長に渡って発生することから、低波数側において2つの解析手法による相関長の評価に顕著な違いがあることを見出している。これらの結果は現在論文投稿中である(H. Shiba, T. Kawasaki, and K. Kim, arXiv:1510.02546)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
異なるサイズ比からなる2成分粒子系、具体的にはKob-Andersen模型や12乗斥力模型の大規模計算をおこなった。最大粒子数は1024万粒子数、主な計算は128万粒子数で行った。これにより得られた軌道を解析し、動的不均一性と長時間緩和にかかわる時空間スケールの評価をおこなった。まず、時間スケールに関する解析として、密度場の時空揺らぎを解析するために導入された4点相関関数に加えて、協調再配置のイベントの分布を取り出すことのできる結合破断関数を評価した。これらによって評価される緩和時間は(2次元系同様)3次元系でも一意ではないことが明確に示された。一方で、空間スケールを表す相関長は、時空関数に対して定義される構造因子を通じて評価した。低波数極限でこの構造因子がゼロ波数極限の収束値に達するほど巨大な系を用いているため、我々の計算はこれまでにないレベルで正確である。その結果、3次元系ではそれぞれのモデルについて両者同様の相関長となることが分かった。大規模振動が協調再配置による動的不均一性を凌駕している2次元系とは振る舞いが顕著に異なっており、動的な不均一分布は3次元系では一意に定まることを示唆する。これらは振動モードの振る舞いが次元によって大きく変わる性質に由来することを明らかにしている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度から引き続き、ガラス転移を示す2成分球対称モデルに対する大規模分子動力学シミュレーションの解析をおこなう。特に今年度は構造エントロピーとガラスの遅い緩和ダイナミクスの相関について詳細な解析をおこない、微細な密度揺らぎが動的不均一性を介してどのように遅いダイナミクスを引き起こすかについてそのメカニズムを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の使用計画の通り予算執行したが、代表者の金、分担者の芝ともに所属機関の異動があったことから予定していた研究打ち合わせを1回見合わせたことから次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究打ち合わせを適宜行う予定である。また研究成果発表のための学会参加を利用した研究打ち合わせを行う予定である。
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