本研究は生物が持つフォトニック結晶の配向特性を明らかにする目的で行った。研究のきっかけとなったのは、フォトニック結晶が多結晶ドメインに分かれているにもかかわらず、一様な色を持つチョウの存在が確認されたためである。フォトニック結晶は光の進行方向によってバンドギャップの周波数が異なるため、多結晶構造は、ドメイン毎に色が異なり、鱗粉がモザイク状に見えることを期待される。しかし、マエモンジャコウアゲハ(Parides sesostris)の前翅の鱗粉は、多結晶であるにもかかわらず一様な緑色に見えることが分かった。このことから、全てのドメインにおいて特定の結晶方位が鱗粉に垂直な面に向いているという特異な配向制御が指摘されていた。今年度は、P. sesostrisの次に取り組んでいるゾウムシのフォトニック結晶構造に関する研究を継続し発展させた。その結果、ゾウムシの種類に依存してドメイン構造が大きく異なることがわかった。すなわち、ゾウムシはフォトニック結晶の格子定数だけでなく、ドメイン配向の制御を行うことで、体表面の色模様を生み出している。また、鱗片内部のフォトニック結晶構造を同定するために、収束イオンビームを用いた加工と走査型電子顕微鏡観察を連続して行う実験を行った。これにより、鱗片内部にあるフォトニック結晶構造がダイヤモンド型のネットワーク構造であることを、これまで以上の確実性を持って示すことができた。さらに、顕微分光法を用いた反射率測定、フォトニックバンドの理論計算を行い、実験データが矛盾なく説明できることが確かめられた。
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