研究課題/領域番号 |
26400437
|
研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
松田 和之 神奈川大学, 工学部, 准教授 (60347268)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 分子内包 / ナノカーボン / 核磁気共鳴 / 分子動力学シミュレーション |
研究実績の概要 |
カーボンナノチューブのようなナノカーボン物質は内部にナノメートルサイズの空間を有し、その空間に分子や原子を吸着させることが可能である。このようなナノ空間に閉じ込められた物質は、バルク状態の物質とは異なる物性が発現することが期待される。本研究では、単層カーボンナノチューブとゼオライト鋳型カーボンが有するナノ空間に閉じ込められた水が示す挙動と構造を、核磁気共鳴(NMR)実験、古典分子動力学シミュレーション、x線回折実験により明らかにすることを目的とする。本研究で用いる単層カーボンナノチューブは平均直径が約1.1~2.5 nmの1次元的空洞を有しているのに対し、ゼオライト鋳型カーボンは約1.2 nmの細孔が3次元的に連結した構造をしており、両者はナノ空間の形状が異なるナノカーボン物質である。以前、直径が約1.5 nm以上の比較的大きな単層カーボンナノチューブでは、内包された水分子が低温でナノチューブ外部に放出されるwet-dry転移が起ることを見出していたが、転移温度以下でもナノチューブ内部に留まった水の構造を調べた結果、この転移を境に内包水の構造が変化することを実験的に明らかにした。さらに、放出された水はナノチューブ外部で凍結し氷Ihを形成することもわかった。この転移に関し、古典分子動力学シミュレーションにより、内包水が転移温度以下で低密度液体様になっていること、またナノチューブ内壁と水分子間の相互作用が転移点以下で疎水的になることを示唆する結果を得た。また、水内包カーボンナノチューブの関連物質として酸素内包カーボンナノチューブを作製し、その構造と物性を調べる実験も行った結果、ナノチューブ内部に生成した酸素分子の1次元チェーンがハルデン磁性体と見なせることが明らかとなり論文発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していたように、ナノカーボンに内包された水の挙動と構造の細孔径依存性や細孔形状依存性についていくつかの新しい知見が得られた。特に、比較的直径の大きなカーボンナノチューブ(直径1.5~2.5 nm)に内包された水が示すwet-dry転移の機構と転移点以下でナノチューブ内に留まった水の構造に関し、いくつかの重要なの知見が得られ、これらをまとめた論文を執筆中である。また、研究室既存のNMRスペクトルメータの受信機系に改良を加えたことにより長時間のシグナル積算に必要な装置の安定性が得られ、次年度はより高精度NMRスペクトルの測定を行うことが可能となった。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、水を吸着させた単層カーボンナノチューブとゼオライト鋳型カーボンの常圧下と高圧下での核磁気共鳴実験とx線回折実験を行い、内包水の挙動と構造を調べる。これに並行して内包水の古典分子動力学シミュレーションを行い、核磁気共鳴やx線回折実験と相補的な情報を得るともに、物性予測も行う計画である。特に、比較的直径の大きなカーボンナノチューブの内包水が示すwet-dry転移については、現在得られているTIP3Pモデルを用いたシミュレーション結果は、x線回折や核磁気共鳴の実験結果と整合しない点があることから、他の水分子モデルを用いるなどして実験結果を再現し、転移機構や内包水分子の動的挙動に関するミクロな知見を得る計画である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究で観測するナノカーボンに吸着した水からの1H,2H核のNMR信号は非常に強度が弱いことがわかっている。これを改善するために、4 kbar程度以下の比較的圧力が低い領域でのNMR測定専用として、信号強度の増大を目的とした試料空間が大きなセルを購入する予定であったが、高圧領域の測定を優先したため、それら圧力セルの購入を次年度以降に先送りした。また、使用した試料石英管や圧力セル部品などの消耗品量が当初の予定より少量であったため、次年度繰越金が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
ナノカーボン試料とその試料調整用の薬品やガラス機器、核磁気共鳴実験やx線回折実験に必要な試料石英管、圧力セル、電子部品などの消耗品購入を中心に研究費を使用する。また学外研究機関で核磁気共鳴実験やx線回折実験を行う際の国内旅費や、学会研究会等で発表するための国内旅費として一部使用する計画である。
|