研究課題
プロテインAが,溶液内でどのような構造を取っているかを明らかにする目的で,X線溶液散乱法で研究を行うことを企画した。プロテインAは,3本のαヘリックスを折れ曲げてできたサブユニット5個が,短いジョイントで繋がれた構造をしており,かっちりとした立体構造を持っていないと思われる。我々は,野生のプロテインAに加えて,一つのサブユニットを修飾してアルカリ耐性を高めたサブユニットを作り,これを5個連ねた誘導体を構築し,野生株と比較検討した。実験は,高エネルギー加速度研究機構放射光研究施設およびあいちシンクロトロン光施設のX線溶液散乱測定ステーションを利用して行った。野生のプロテインAは,中性では,免疫抗体IgGと結合するが,酸性では解離する。これはプロテインAの構造が,酸性状態と中性では異なるためではないかと予想し,実験は,野生株,誘導体とも酸性,中性で行い,それらを比較検討した。どの条件でも,解析に耐えるデータを得ることができた。 ab inio の計算結果では,それぞれの状態の間に差は認められたものの,顕著な構造の違いは観測されなかった。現在その結果に基づいて,コジマらの開発した SAX-MD 法を用いてモデル構造の計算を続けている。一方,プロテインAが免疫抗体のとどのように結合するかは極めて興味深い研究対象である。我々は,当初 IgG とプロテインAとの結合体の構造を測定しようとしたが,会合体を形成して,プロテインAとIgGだけの結合体の測定が困難であったが,IgG に代えてその一部であるFcフラグメントを用いて測定したところ,きれいな測定結果を得ることができ,おそらく両者が1:1で結合していることを示唆するデータが得られた。この結果についても若干の追加実験を行った後,発表したいと考えている。
2: おおむね順調に進展している
目的としていた実験はほぼ終了した。現在はモデルに基づいた構造計算をしている。年度内には成果を論文の形で発表できる予定である。ただ,実験の中で興味深い結果が得られてきたので,来年度には新たな課題で、科学研究費を申請したいと考えている。
本研究でめざしたプロテインAの溶液内構造の研究の課題はほぼ成功裡に終わりつつある。まず今まで得られた実験結果をまとめて、SAXSーMD法によるモデル構造の計算を完成させ、できれば年度内に論文として投稿するところまで進めていきたい。さらに、次のステップとして,プロテインAと免疫抗体がどのように結合するかのメカニズムに進みたい。この系については、既に予備的実験を行い、会合のない測定が可能であることを確かめることができた。今後新たな実験の計画するには、資金が必要であり,来年度の科研費に応募したいと考えている。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件)
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