研究実績の概要 |
通常筋肉は、収縮と弛緩の2状態をとり、その状態の変化は筋肉内のカルシウム濃度で制御されているが、筋肉内のカルシウム濃度をその中間の値に設定すると、カルシウム濃度が一定であるのにも関わらず、収縮と弛緩を自発的に繰り返す「自励振動」を示す(SPOC)。この現象は横紋筋(心筋、骨格筋)であればウシ、カエルなどの種によらず普遍的に起こる現象であり、横紋筋が持つ特性と強く関係していると考えられている。また心筋の拍動のメカニズムとも深く関係していると考えられている。
本研究では、先行研究で提案された筋肉の自励振動のメカニズム(アクチンミオシンフィラメントの収縮時における距離(格子間隔)の変化がミオシンの活性を変化させるという説(格子間隔仮説))(K. Sato, et al. 2011)とそのモデル(K. Sato, et al. 2013)を、実際の実験との比較が行えるように、筋原線維の束やシートに拡張し、その振動パターンを調べた(K. Nakagome, et al. 2016)。このモデルは実験で観測される振動パターンを再現するだけでなく、未だ観測されていない振動パターンとその現れる条件を示した。また筋肉の自励振動を再現する数理モデルは、結合振動子としても新しい問題を提示する。局所大域結合振動子の位相方程式を網羅的に調べることによって、新しい振動(大域的に安定であるサドルリミットサイクル)を発見した(K. Sato and S. Shima, 2015)。平成28年度は、筋肉の自励振動と心筋の拍動のメカニズムとの関係を調べるために、自励振動を再現するモデルでカルシウム濃度を時間的に変化させ、実際の心筋の拍動を再現できるかを調べた。この調査は現在(平成29年4月12日現在)も実行中であり、この研究が進めることによって、心筋の拍動と筋肉の自励振動との関係が確認されることが期待される。
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