|
本研究では，プレート下面に相当するリソスフェア－アセノスフェア遷移境界（Lithosphere-Asthenosphere Transition:LAT）の地震学的構造の高精度な推定を目指している．前年度までの研究を通じ，表面波トモグラフィーによる高精度な3次元異方性モデルとLAT分布の推定法を開発し，さらに，レシーバ関数から推定されるリソスフェア内部境界（Mid-Lithosphere Discontinuity:MLD）と鉛直異方性との関係も明らかになってきた．本年度はさらに，上部マントル内部の微細不均質性とMLDやLATとの関連性を調べるため，リソスフェア－アセノスフェア内に存在し得る微細ランダム不均質性が，長周期表面波の伝播速度に与え得る影響について定量的な評価を行った．まず１次元速度プロファイルにランダム不均質を加えた大量の合成モデルを作成し，それらから推定される理論分散曲線を用いて，微細不均質性が作り出すみかけの鉛直異方性について定量的に考察した．その結果，ランダム不均質性によるＳ波速度の揺らぎが，ラブ波位相速度を高速側に，レイリー波位相速度を低速側にシフトさせ，みかけのＳ波鉛直異方性を生じさせることが明らかとなった．このみかけの異方性の強さは，大陸域で観測される鉛直異方性（約2-3%程度）の3～5割程度の大きさにも達する．微細ランダム不均質性が，高周波地震波だけでなく，長周期表面波にも影響を及ぼし，大規模スケールのS波異方性を考慮する際に無視できない要素であることを示唆している．さらに，世界各地のリソスフェア－アセノスフェア構造の高精度復元に向けて，表面波の位相・振幅情報を用いた北米大陸の新しい3次元上部マントル速度モデルの構築や，複数のアレイのデータを用いた東アジア地域の新しい3次元S波速度モデルの構築も行った．
|
