研究実績の概要 |
日本列島域の絶対応力場の推定を目指して,間隙流体圧をパラメータとして地震のメカニズム解から絶対応力場をモデル化する手法を開発した(Terakawa & Hauksson, 2018).本研究では,地震のメカニズム解(データ)と地震を引き起こした応力場6成分の関係を理論的に考察し,最大剪断応力が地震時に断層に働く間隙流体圧に依存するを明らかにした.この考えと従来から地球物理学分野のインバージョン解析で用いられてきたベイズ的統計推論とABICの枠組みに基づき,対象地域の絶対応力場6成分を間隙流体圧パラメータによりモデル化することに成功した.間隙流体圧は,無次元化したパラメータとして扱う工夫をした.本手法により大地震発生直前の絶対応力場をモデル化し,これに地震による応力変化を重ね合わせると,大地震直後の絶対応力場が得られる.大地震前後の応力場6成分が直接得られるため,様々な物理量の地震前後の時間変化と間隙流体圧パラメータの関係を定量的に評価することができる.得られた関係式を観測結果(例えば,応力インバージョンで捕らえられた応力場の時間変化など)と比較することにより,対象地域の間隙流体圧パラメータを介して絶対応力場の推定を行う.とくに,本研究の重要な成果として,地震前後の弾性歪エネルギーの変化を直接調べることができるようになったことが挙げられる.地震によって解放された弾性歪エネルギーは,新しい破壊面を作るための破壊エネルギー,熱エネルギー,地震波の放射エネルギーとして消費される.このため,地震時には,少なくとも放射エネルギーよりも大きな弾性歪エネルギーが解放される必要がある.これを新しい拘束条件として,絶対応力を推定することが可能となった.
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