研究課題/領域番号 |
26400452
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
久家 慶子 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50234414)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 地震波速度 / トモグラフィー |
研究実績の概要 |
FMTOMO(Rawlinson et al., 2006)の手法を用いて、マントルウェッジに低速度領域が存在するP波速度構造モデルに対する数値実験を実施した。理想的な震源分布と観測点分布を仮定して、マントルウェッジに低速度領域がない初期モデルから、マントルウェッジの低速度領域が正しく検出できるかを調査した。複数の波線を伝播するP波の走時データを使用すると、マントルウェッジに正しく低速度の値が推定できることが確認できた一方、P波初動の走時データのみを使用した場合には、地震波速度モデル内の速度不連続境界の設定にかかわらず、マントルウェッジに正しい低速度の値は求められず、不安定に高い値を示すことがわかった。これらの結果は2015年IUGGにおいて成果発表を行った。また、想定する地震波速度モデルを変化させたところ、モデルによって走時計算をしたり速度モデルを推定したりする過程で問題が生じることがわかり、この問題を克服する策が必要であることが明らかとなった。その一方で、トモグラフィーに用いる後続波のデータの準備として、継続して、地震波形データから後続波の検出を行い、データを増やした。後続波の到達時刻を読み取るテストも行っている。加えて、最終的に3次元速度構造から観測している後続波を再現できるか否かを調べるために、有限差分法での波形計算を行う準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)地震波速度トモグラフィーの手法の開発(継続): 予定していたとおり、FMTOMO(Rawlinson et al., 2006)の手法を用いて、理想的な震源分布と観測点分布を仮定して、マントルウェッジに低速度領域が存在するP波速度構造モデルに対する数値実験を実施した。マントルウェッジに低速度領域がない初期モデルから、マントルウェッジの低速度領域がどれだけ正しく検出できるかを調査した。P波初動の走時データのみを使用した場合と、複数の波線を伝播するP波の走時データを使用した場合に得られるトモグラフィーの結果と解像度を調べた。また、理論走時を計算する際に、地震波速度モデルに速度不連続境界面を仮定する場合と仮定しない場合での結果の違いについても調べた。想定する地震波速度モデルを変化させる中で、簡単なモデルでも、モデルによって、走時計算をしたり速度モデルを推定したりする過程で問題が生じる場合があることがわかり、この問題を克服する策を検討している。一方で、最終的に3次元速度構造から観測している後続波を再現できるか否かを調べるために、有限差分法での波形計算を行う準備を行った。
(2)後続波のデータの作成(継続): 継続して地震波形データから後続波の検出を行い、データを増やした。後続波の到達時刻を読み取るためのテストを継続している。研究代表者が既にみつけている後続波以外に、地下構造に影響を受けている可能性のある地震波について新たな発見はなかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度までの研究実績を踏まえて、以下のように、当初の計画に即して研究を推進する。
(1)地震波速度トモグラフィーの手法の開発(継続): FMTOMOの手法を用いた数値実験を、実データと同じ震源分布と観測点分布を仮定して、マントルウェッジに低速度領域が存在する地下地震波速度構造モデルに対して実施する。P波初動の走時データのみを使用した場合と、P波初動と後続波の走時データを使用した場合の両方におけるトモグラフィーの結果と解像度を調査する。最適な結果を取得するために使用するデータ選択の調整もあわせて試みる。これらの過程の中で、2015年度に明らかになった、想定する速度モデルによって生じてしまう問題点について解決策を探る。
(2)後続波を考慮した地震波速度トモグラフィーの実施:P波S波初動到来時刻だけの実データを用いて、地震波速度トモグラフィーを実施する。その一方、検討の末選ばれた手法により後続波の走時データセットを完成させ、この後続波データをP波S波初動到来時刻の実データとあわせて用いて、地震波速度トモグラフィーを試みる。(1)での結果を考慮しながら、使用するデータの範囲や基準などについて検討しつつ実施する。得られる地震波速度モデルから、観測された後続波波形をどの程度復元できうるか、確認する。他のデータから求められている観測結果との整合性を検討しつつ、最終的な地殻マントル構造モデルを構築する。結果をもとに、西瀬戸内海下の領域がどのような物質からなるのか、深部低周波地震の発生機構が満たすべき制約条件を、発生場所とその物質特性から示す。成果を論文にまとめ、国際的な学術雑誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度実施した地震波速度トモグラフィーの手法の開発内で、テストの中で想定する地震波速度モデルを変化させたところ、モデルによって、走時計算をしたり速度モデルを推定したりする過程で問題が生じる場合があることがわかった。計画を実施するにあたって実データを使用する前に解決するべき問題であり、この問題を克服することが成果発表よりも先決であると判断した。これにより予定していた海外での成果発表と成果発表をヴィジュアル化する等のためのソフトの購入を見送ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度生じた使用額は翌年度分として請求した助成金と合わせて、理論計算などから得られる波形データや研究成果を整理しヴィジュアル化するために必要となるソフトとPC、国内外での成果発表のための旅費、研究成果の学術論文を公表するための英文校正費・掲載費に使用する。
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