研究実績の概要 |
実際の気象庁一元化データの地震観測点と地震の配置を用いた調査を実施した。全国1次地下構造モデル(Koketsu et al., 2008)をベースに、1997年10月以降に発生した大陸地殻内の地震とフィリピン海スラブ地殻内の地震を選んだ。FMTOMOで、フィリピン海スラブのモホを速度不連続境界に設定し、走時データの選択によって得られる地下のP波速度構造の変化を調べた。初動のみならず、境界の上部や下部を通過するすべてのP波の走時データを用いると、フィリピン海スラブの上側にある低速度のマントルウェッジをよく求めることができる。走時データを初動に限定した場合、マントルウェッジの速度は系統的に高めに求められる。高速度への系統的なずれは、2次元地下構造を仮定した場合にくらべ、3次元的に変化する地下構造では減少するようにみえる。距離100km内の初動データに限定しても、マントルウェッジの速度が高めに求められるようすは変わらない。高速マントルを通過するヘッドウェイブは、距離約100kmあたりから増加するので、ヘッドウェイブの初動データがマントルウェッジの速度を増加させているわけではない。速度不連続境界の設定や波線の密度などがきいている可能性がある。これらの結果は、アメリカ地球物理学連合2017年秋季大会において成果発表を行った。 P波S波の初動データだけからの地震波走時トモグラフィーは瀬戸内海下のマントルウェッジ域の速度を系統的に高く見積もる。深部低周波地震発生域のマントルウェッジ域の速度は、従来言われてきた値よりも低い可能性がある。周辺にモホのような速度不連続がある場合には、推定値がその影響を受けていることも予想される。後続波のデータを使うと、より正しい値をもたらしうるが、速度不連続の設定に関して検討の余地が残る。
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