本研究課題では,GPSデータとInSAR時系列解析を組み合わせることで,飛騨山脈近傍の跡津川断層系において空間分解能の高い地震間地殻変動速度場を得た。これまでInSARによる地震間地殻変動の検出例は乾燥地域や変位速度の大きな断層クリープに限られていたが、我々は飛騨山脈のように地形が険しく植生も濃く、さらに積雪も多い劣悪な環境に適した手法を確立した。詳細を以下に記述する。 まず時間基線長が長く空間基線長の短いInSAR画像を複数作る。次に、数値標高モデルを用いて、これらの画像から標高依存成分を除去する。さらに、GPS速度場を用いて各InSAR画像に含まれる長波長ノイズ(主に軌道推定誤差・水蒸気および電離層の擾乱による)を除去する。GPS観測点で推定されたInSARの誤差を任意のピクセルに内挿する際には、スプライン関数を用いるとGPS速度の推定誤差(特に鉛直成分)が直接伝播するため、空間の双線形関数を用いた。このように補正された干渉画像を用いてSBAS法に基づくInSAR時系列解析を行い、短周期成分(主に電離層や水蒸気の擾乱に起因)を除去して、面的な地震間速度場を得る。 こうして得た面的な速度場から、跡津川断層系を構成する活断層(牛首断層・跡津川断層・茂住-祐延断層)の中で最も変位勾配が大きいのは牛首断層近傍であることが分かった。また、過去に議論されていた跡津川断層中心部の断層クリープは確認されなかった。本研究を通して、歪集中帯内部の空間的な不均質構造を検出することが可能となった。 上で述べた成果については水蒸気や電離層の擾乱による誤差の影響がまだ大きく、技術的に改良の余地がある。最終年度は解析領域を東西方向に広げたり、特定の地点について時系列解析の結果が時間的に十分スムーズになっているかをチェックするなど、地球科学的な観点から結果の信頼度を調査し、成果を国際誌に発表した。
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