研究課題
平成28年度は、北部北太平洋域の海洋の植物プランクトンの増殖に必須な微量元素である鉄の大気から沈着する量とその経年変化を明らかにすることを目的に、アメリカ合衆国アラスカ州のランゲル山山頂氷河で採取されたアイスコアに含まれる鉄の分析を行った。アイスコア中に含まれる鉄の濃度は、アイスコア採取時に付着するコンタミネーションと比べて非常に低いため、まず最初に、アイスコアに含まれる鉄濃度に比べて問題ないレベルまでコンタミネーションを除去する方法を確立した。その方法を用い、2003年から1981年までに相当する100m長のアイスコア中に含まれる鉄濃度を連続的に分析し、各都市毎の年間鉄フラックスを求めた。得られた年間鉄フラックスは、アジア大陸で発生する大規模砂嵐の頻度、日本で観測される黄砂日の延べ日数と高い相関を示し、ランゲル山アイスコア中の鉄の殆どはアジア大陸起源の鉱物粒子であることが示唆された。得られた鉄の年間フラックスから海洋中に溶出されうる溶存鉄濃度は、海水への溶解度や滞留時間などいくつかの不確定な仮定を含むが、冬期の東部北太平洋地域の混合層中に含まれる溶存鉄の濃度の8~68パーセントに相当し、黄砂現象が頻繁に観察された2001年では66~120パーセントにも相当すると見積もられ、東部北太平洋域の生物生産にアジア大陸由来の鉱物粒子がいくらかの影響を与えていることが分かった。研究期間において、アラスカ山岳氷河、グリーンランド氷床西部、東部で採取されたアイスコアの解析を行い、小氷期後半(1850年代)から1940年代と、温暖化が顕在化した1990年代以降の気候のシフトが明らかにされ、アラスカとグリーンランドの環境変化がリンクしていることが見出された。今後は、更に東側に位置するカムチャツカの山岳氷河からアイスコアを採取し、小氷期以降の気候変動の実態を半球規模で復元することを目指す。
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