研究課題
これまで得られている南極ドームふじ深層氷コア(全長3035.22m、最深部年代約72万年前)中の金属全濃度プロファイルの精度を上げるために、321.80-3027.10m(推定年代約1-72万年前)の区間から、新たに100試料の追加分析を行った。分析項目はAl、Fe、Mn、Na、Mg、Ca等の金属成分全濃度(粒子態濃度+溶存態濃度)である。今年度得られた結果とこれまでに得られている結果とを合わせて、過去72万年にわたる気候・気温変動とエアロゾルのフラックス・組成変動との関連性、ドームふじ深層氷コア中の金属成分と微粒子濃度について解析をすすめ、論文・学会発表を行った。深層コア解析との比較のため、南極大陸沿岸部に位置するH128地点で採取した積雪ピット試料につき金属成分全濃度を測定した。得られた結果から南極沿岸氷床における海・陸起源エアロゾルの輸送・堆積環境を明らかにし、内陸ドームにおける結果と比較解析した。また、ピット解析の結果を南極昭和基地における気温のモニタリングデータと比較解析したところ、沿岸氷床においては氷床融解の可能性が認められた。これらの成果は学会で発表し、論文発表準備中である。ドームふじ深層コアから過去の南極氷床表面におけるアルベド変動の復元を試みるため、雪氷中金属濃度とアルベド変動の関係を明らかにする実験も前年度から継続して行った。2017-2018年冬期に山形県内各地の積雪地において、雪面アルベド測定と表面積雪採取の同時観測を行った。積雪試料中のAl全濃度を測定し、測定された雪面アルベドとAl全濃度の関係を解析したところ、対数回帰による決定係数が0.70と高い値を示した。今後、この結果をドームふじ深層コア中の金属全濃度に適用し、過去72万年間の南極氷床表面におけるアルベド変動の復元を行い、成果を学会・論文発表する予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、1.南極氷床に空輸された粒子成分とイオン成分の分別解析を行うこと、2.陸・海起源エアロゾル濃度・組成変動と気温や温室効果気体濃度変動との関係を明らかにすること、3.急激な気候変動における陸・海起源エアロゾルの役割を定量的に評価することの3項目である。26年度から28年度までの「研究実施計画」として、ドームふじ深層氷コア約300試料の分析、国内外の積雪地や氷河・氷床における表面積雪中金属成分とアルベドの測定を行って、目的1と2を達成し、29年度以降は主にドームふじ深層氷コア中金属成分全濃度の精度を上げつつ目的3の達成を目指すことを計画した。29年度終了の現時点で、ドームふじ深層コアについては、300試料の分析と解析が終了しており、本研究の達成に必要な最低限のデータセットは得られている。最終年度である本年度は、ドームふじ深層コアについては解析の精度を上げるための追加分析をさらに実施し、過去72万年にわたる南極域への陸・海起源エアロゾルフラックスの復元を通して、氷期サイクルをはじめとする気候変動に対するエアロゾルの役割を定量的に評価することを目指す。南極深層コアの解析はほぼ予定通り進んでおり、比較情報として、南極氷床表面における金属成分分布、山形県積雪地における雪面アルベド-雪中金属濃度の解析、グリーンランド氷床中金属濃度の測定等も並行して行うことができているため、達成度は「おおむね順調に進展している」とした。
平成30年度は、南極ドームふじ深層コアの金属成分分析を継続実施する。ドームふじ深層コアについては、変動の全体像は取得済なので、30年度はデータポイントの希薄な部分を中心に追加分析を行いデータセットの精度を上げることにする。氷床中金属濃度の南北両極比較のためグリーンランド氷床掘削により得られている氷コア中の金属分析も行う。また、南極大陸沿岸部H128地点で採取済である過去2000年をカバーする中層コア中の金属成分、イオン成分、安定同位体等を測定し、人類活動が活発化した時代における気候・環境変動とエアロゾルとの関連性の解明も目指す。これらの分析に加え、これまでに得られている結果の総合的解析を行い、急激な気候変動にともなうエアロゾルの組成・降下量の変動と地殻・海洋環境、地球気候変動等との関連性等につき解析し発表する予定である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 5件)
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