過去百万年超にわたる積雪で形成された南極氷床には地球の気候変動の歴史が連続的に記録されている。このため南極氷床を鉛直的に掘削して得られる氷床コア試料を解析し過去の気候変動をひもとく試みが国内外で行われている。我国では、日本南極地域観測隊により内陸ドームふじ基地(南緯77°19'、東経39°42'、標高3810m)において深度3035.22mまでの氷床コア採取に成功し、この氷床コアには過去72万年の気候変動情報が記録されていることが明らかになっている。氷床コア研究において、気候変動はエアロゾル輸送力変動と関連づけて議論されている。しかし、その議論に用いられているデータの多くは、氷床コアを自然融解させて得た溶存イオン濃度であり、融解水中の不溶性粒状物、すなわちエアロゾル自体を構成する粒子態金属についてはほとんど測定されていない。エアロゾルの気候変動における役割は、コア中溶存成分ではなく粒子態成分の解析に基づいて行われるべきであるにもかかわらず、先行研究においては、方法の煩雑さゆえか、粒子態金属成分の測定はほとんど行われていない。コア中粒子を全分解することにより粒子態および溶存態金属成分濃度を得ることは国際的にも希な取り組みである。本研究では、ドームふじ深層コアに含まれる粒子態金属成分濃度と溶存態金属成分濃度を定量し、既に得られている酸素同位体比や温室効果気体濃度等の測定結果と合わせて解析することにより、1)南極氷床に粒状物(エアロゾル)として供給された物質と溶存物(降雪中イオン)として供給された物質の分別を行う、2)陸・海起源エアロゾル濃度・組成変動と気温や温室効果気体濃度変動との関係を明らかにする、3)急激な気候変動における陸・海起源エアロゾルフラックスの役割を定量的に評価することを目的とした。また比較解析として、北極グリーンランド氷床コアや中緯度氷河の分析も行った。
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