研究課題/領域番号 |
26400465
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
藤波 初木 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 講師 (60402559)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | バングラデシュ / 渦状低気圧 / 降水システム / 季節内変動 / 雲解像モデル / アジアモンスーン |
研究実績の概要 |
今年度は、夏季バングラデシュ上で発生・発達し、平野部に大量の降水をもたらす、渦状低気圧の発生環境を調査した。この低気圧の発生は、夏季アジアモンスーン域で卓越する2つの季節内変動である準2週間周期変動(QBW)と30~60日周期変動(BSISO)の時空間的な位相関係に強く依存することが分かった。従来、バングラデシュ上の降水量変動はQBWが支配的でBSISOのシグナルは非常に弱いため、QBWの変動プロセスの理解が重要であると考えられてきた。しかし、渦状低気圧の発生条件にはQBWよりも時空間的に大きな構造を持つBSISOも同様に重要であることが分かった。具体的には、BSISOが赤道インド洋から北東進し、その低気圧性循環偏差がベンガル湾からインド亜大陸に存在する時に、南シナ海から西進するQBWの高気圧性循環偏差がインドシナ半島西部からベンガル湾東部に到達すると、ベンガル湾北部からバングラデシュ南部にかけての西風の低気圧性シアが非常に強くなり、渦状低気圧が発生しやすくなる。これは、夏季バングラデシュ上の低気圧の発生予測と、南アジアの気候システムの理解向上に資する重要な知見である。 次に、渦状低気圧の詳細な構造を解析するため、雲解像モデル(CReSS)による再現実験を行った。夏季バングラデシュ周辺のヒマラヤ・チベット山塊を含む比較的数値計算の難しい領域で、雲解像モデル(水平解像度5km)を用いて、渦状低気圧を再現する実験は世界初の試みである。実験は典型的な渦状低気圧が発生した2003年6月21日の事例について、6月15日00UTCを初期値にして10日間計算を行った。CReSSは渦状低気圧に伴う平均的な降水量分布や低気圧の空間構造をよく再現した。さらに、低気圧内部にらせん状の降水帯とその降水帯の中に強い降水強度(時間降水量100mm以上)をもつセル状の降水システムが再現された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は概ね順調に進展している。当初計画では、平成27年度に、数値モデルによる渦状低気圧の再現実験を重点的に行う予定であったが、平成26年度の後半に行った低気圧の発生環境場の初期解析結果に非常に興味深い結果が示されたため、平成27年度の前半から中盤は引き続き発生環境場の研究を深化した。これらの内容は引き続く数値モデルの再現実験の実験設定で十分生かされており、研究課題全体としてはほぼ順調に進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、人工衛星データを用いて渦状低気圧に伴う降水システムの実態を解析するとともに、雲解像モデルによる再現実験で得られた降水システムの解析を合わせて行う。また数値実験で得られた低気圧の発達過程を調査する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
繰り越し分が発生した理由は、主に論文の投稿が遅れたことと、海外出張にいけなくなったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、論文投稿が既に1本と、投稿準備中が1本(5月中に投稿予定)がある。また、追加の数値実験を大型計算機で行う予定であり、繰り越し分はそれらの費用として有意義に使用できる予定である。
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