まず1958年以降、北西太平洋域にて最低中心気圧が900hPaに達した極端に強い台風について水平解像度5kmで再現実験を実施した。さらに水平解像度2kmの再現実験を実施し、水平解像度5km実験では再現されなかった急激な中心気圧低下の再現に成功した。実験結果を比較して、内部コア領域における背の高く強い上昇気流の最大風速半径付近および内側での形成と軸対称構造の確立が急激な中心気圧低下開始のカギとなること、また、数値モデルの分解能によってそれらの要因の表現が異なることで、中心気圧低下量に差異が出ることを明らかにした。以上の結果を2本の論文にまとめ、Journal of the Atmospheric Sciencesおよび気象集誌にて発表した。 その後、さらに対象を最低中心気圧が900hPaに達した極端に強い台風32例に拡張し、水平分解能が異なるモデルによる比較実験を実施した。その結果、水平分解能が粗いモデルにみられる最大強度到達緯度の顕著な北上バイアスが、1)極端に強い台風の大半にみられる急激な中心気圧低下を表現しづらいこと、一方で2)ゆるやかな発達速度で長時間発達し続けてしまうことの2点によりもたらされていることを明らかにした。それぞれの要因についての議論をまとめ、Journal of Climateに投稿し受理された。 並行して、擬似温暖化実験手法を構築し、1959年9月東海地方を襲い甚大な被害をもたらした伊勢湾台風を対象に複数の将来変化予測を用いた擬似温暖化実験を実施した。その結果について、これまでの知見を活かして「極端に強い台風にみられる急激な中心気圧低下メカニズム」に着目して調査したところ、温暖化気候下におかれた将来の伊勢湾台風はより急激な中心気圧低下を経た上でより強度を増す可能性をロバストに示した。結果をまとめてJournal of Climateに投稿し受理された。
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