テーマ②位相反転プロセスの要因解明を中心に行った。まず、熱帯域のみを高解像度化(0.2°x 0.2°)した海洋モデルを用いた大気海洋結合モデルを作成した。従来の海洋モデル(1°x 0.5°)を用いた結合モデル結果と比較することにより、海洋モデル高解像度化の影響を評価した。その結果、熱帯不安定波動の表現の向上による南北熱輸送の強まりにより、海面水温場や降水場の南北非対称性が強まるなど、基本場の再現性向上を確認した。次に、熱帯太平洋とインド洋の相互作用を明らかにするために、熱帯太平洋からインド洋へのシグナルの伝搬経路と考えられる、(a)大気のテレコネクション(atmospheric control)と(b)インドネシア通過流の変動(oceanic control)を調べた。(a)については熱帯太平洋とインド洋の風の場のラグ相関、(b)については東部インド洋熱帯域の混合層の変動とインド洋の風の場との位相関係を解析した。その結果、熱帯太平洋からインド洋へのシグナルの伝搬は認められたものの、逆方向のシグナルの伝搬は見られず、当初想定していた両者のフィードバック機構は確認できなかった。しかしながら、モデル結果にローパスフィルターをかけて長周期変動のみを抽出した場の解析により、1990年代後半の位相反転に関連した熱帯太平洋における貿易風の強化は、北太平洋中緯度から伝搬してきた変動と関連していることが明らかになった。このシグナルの伝搬は、北太平洋中緯度の大気の内部変動、それに伴う海面フラックス変化による東部太平洋亜熱帯域における海面水温偏差の形成および熱帯域の大気海洋相互作用の強化、という一連のプロセスと密接に関連していた。したがって、大気の内部変動に起因するstochasticな変動が、1990年代半ば以降の熱帯太平洋の十年規模変動の位相反転プロセスに寄与していたことが強く示唆される。
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