研究実績の概要 |
海洋波動を介した熱帯・中緯度相互作用の典型例としてエルニーニョ/南方振動の時間発展を挙げると,赤道太平洋を東進する海洋ケルビン波が南北アメリカ大陸に達したのち沿岸を極側に伝搬することで中緯度の海洋ロスビー波を励起すると説明される.これを準地衡近似に基づく従来のエネルギーフラックスの診断を用いて定量的に説明しようにも,赤道が特異点となってしまう,海岸線における境界条件が満されないなどが障害となる.この障害の克服のため,本研究課題では波浪力学に関するLagrange平均理論の基礎研究で培った各種波動エネルギー/擬運動量の相互関係に着目して赤道導波管と沿岸導波管に対する2種の診断表式の接続に挑み,緯度帯に関するシームレス機能と波動の種類に関するオートフォーカス機能を共に有するエネルギーフラックス診断式の導出に成功した(Aiki et al. 2017 PEPS).この式は海岸線での境界条件を満たすよう設計されており,西岸と東岸で海洋波動が反射・回折する海盆モードの過程を群速度ベクトルに沿って追跡し,波動エネルギーの伝達経路を消散領域まで定量的に特定することが初めて可能となった.この新しい診断式により,ロスビー波・慣性重力波・ケルビン波など,どの種類の波動にも共通の尺度で,波動エネルギーのライフサイクルを中緯度から熱帯まで連続的に追跡することが初めて可能になった.これは大気海洋波動力学の今後の発展へのブレークスルーとなり得る画期的なものである. 海面の砕波については,海洋物理の枠を超えた融合発展を目指すことが効率的であると判断した.H29年8月には台風5号襲来時における波飛沫(シースプレー)観測を京都大学防災研究所の協力のもと和歌山県白浜海上観測塔にて成功した.独自開発した海上測定システムの堅牢性が示され,海洋性エアロゾルの生成源として波浪境界層研究の新しい展開が可能になった.
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