研究課題
2013年9月に打ち上げられた極端紫外線分光撮像望遠鏡衛星「ひさき」は、3年間の太陽系惑星の観測を成功させた。木星周辺の宇宙空間には、衛星イオの軌道に沿って濃い電離ガス領域(イオプラズマトーラス)が存在している。これはイオの火山活動により放出されたガスが宇宙空間に流出したために形成されたものであるが、このプラズマトーラスの存在により、磁気圏で生じたプラズマの加熱現象を電離ガスからの発光によって捉えることができる。木星のオーロラは極端紫外線で強い発光を持ち、磁気圏内のエネルギー解放過程を反映している。ひさき衛星は、極端紫外線を通して木星磁気圏のエネルギー解放現象とプラズマ加熱をリモートセンシングすることができる。本研究では、ひさき衛星の長期連続観測データを用い、イオプラズマトーラスとオーロラの時間変動特性を調べた結果、(1)イオの火山活動の変化によって木星磁気圏へのプラズマ供給量が増加すること、(1)中間・外部磁気圏へのプラズマ供給量の増加によってオーロラの活動度(磁気圏でのエネルギー解放過程)が活発化することが明らかにされた。太陽系の固有磁場を持つ惑星には大別して2つのタイプの磁気圏がある。1つは磁気圏内のプラズマの輸送とエネルギー解放現象が太陽風により制御される、地球磁気圏に代表されるタイプ、もう一つが惑星の自転角運動量が磁気圏プラズマを駆動する木星に代表されるタイプである。自転角運動量の輸送効率が、磁気圏内部のプラズマ生成量に制御されることがこれまでの研究から予想されていたが、ひさき衛星はイオの火山活動の変化によるプラズマ生成量の変化を捉え、その影響がエネルギー解放過程の発生を制御していることを初めて観測的に明らかにした。この結果を物理的に解釈するために、Fukazawa et al. 2005,2006を用いた磁気圏グローバルシミュレーションによる検証を実施中である。
2: おおむね順調に進展している
ひさき衛星の観測データを用いた解析研究は順調に進んでおり、その成果は学会発表、論文を通して公表されている。観測結果を物理的に解釈するための木星磁気圏グローバルシミュレーションを、Fukazawa et al. 2005,2006を用いて開始している。これまでに、磁気圏内のエネルギー開放現象(磁気圏夜側領域でのリコネクション)により生じた高温プラズマ領域の時間発展を調べるため、プラズマのエントロピーを計算ルーチンを開発し、今後のシミュレーションデータの解析に用いる。
これまでに実施してきたひさき衛星のデータ解析結果を論文として公表するとともに、磁気圏MHDシミュレーションによる観測結果の解釈を進める。
ひさき衛星による木星の観測データの解析結果を元に、新しい知見を得ることができ、成果を公表するための論文執筆を進めている。解析を定量的に行うにあたり必要な観測データの校正に想定以上の時間を要し、本研究の最終年度であるH28年度中に論文の公表が困難となった。本研究で得られた成果を本研究経費(論文出版費及び成果旅費)で支出が可能となるよう、補助事業期間の期間を延長したため、次年度使用額が発生した。
本研究で得られた成果の公表(論文出版費及び成果旅費)として使用する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 備考 (3件)
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