オーロラの発光領域のすぐ内側のカスプは磁力線が宇宙に対して開いている特異な領域である.この領域では宇宙空間から直接粒子が流入できるため,地球大気は宇宙空間からの影響を直接受ける.このカスプ領域の高度400 km付近で,これまで想像されていなかった中性大気密度の上昇が人工衛星の観測で見つかった.密度上昇に対して,いくつか仮説は出されているものの,決定的案証拠がいまのところない.この問題を解決するためには中性大気風速を調べることが鍵となる.高度100~400 km付近の熱圏風速を計測することは容易でなく,現在,最も有力な方法はロケットからガスを放出して,そのガス雲の共鳴散乱光を地上から撮像し,その動きから風速を算出することである.この手法は主に日本で開発されてきた.本研究では,平成26年度にノルウェー・アンドーヤから打ち上げたロケットから太陽光で共鳴散乱光を発するガス(バリウム,ストロンチウム)をカスプ領域に放出し,地上2カ所から撮影した.バリウムは太陽極端紫外光によりすぐにプラズマ化するため,プラズマドリフト速度も計測できる.観測画像を元に,三角測量の手法用い,それぞれの時間でのガス雲の位置を推定し,中性大気風およびプラズマドリフト速度を算出した.中性大気風速は北西に100~150 m/s,プラズマドリフト速度は東北東に320~500 m/s であった.水平のプラズマドリフト速度方向はSuperDARNレーダーで観測された速度方向とおおむね一致した.一方,本来,観測対象であるカスプ領域にガスが放出できていなかったことが,他の観測から判明した.そのため追加で同様の実験を実施する計画を立案中である.
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