研究課題/領域番号 |
26400481
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研究機関 | 吉備国際大学 |
研究代表者 |
橋本 久美子 吉備国際大学, 地域創成農学部地域創成農学科, 教授 (00389008)
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研究分担者 |
菊池 崇 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 名誉教授 (70358977)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 電離圏電場 / HFドップラー / 地磁気脈動 / 赤道ジェット電流 / evening anomaly / 磁気圏電離圏結合系 / 磁気圏電離圏電流回路 |
研究実績の概要 |
1. 平成26年度に明らかにした磁気嵐SC時の電離圏の上昇運動を起こす電場を、グローバルMHDシミュレーションで再現されたSC電場と比較解析し、この電場が磁気流体波動ではなく電離圏電流に伴うポテンシャル電場であることを見出した。同時に、電場のevening anomalyが電離圏電気伝導度の非一様性とホール効果による電位分布の地方時非対称性に起因することが明らかになった。この成果を論文にまとめて、米国地球物理学会誌に発表した。 2. 継続時間の短い事象の方が電離圏の組成変動の効果を受けにくいことから、地磁気脈動(周期:300-600秒)に注目し、中緯度電離圏電場と赤道電離圏ジェット電流の定量的な関係式の導出を試みた。解析した事象は、電離圏電場と赤道磁場の変動が高い相関係数(0.8 以上)を維持して日没を挟んで10時間継続しており、両者の比が太陽天頂角に依存する関係式dH=49.9*E*(cosA)**0.62 (dH:EEJの地磁気変動, E:中緯度電場, A:太陽天頂角)で表されることを見出した。Anderson et al., 2002以来、電場とEEJの定量的関係が研究されて来たが、太陽天頂角依存性を示した初めての結果である。この関係式から赤道のCowling電気伝導度を推定し、11 MLT に約120mho、14-16 MLT では約60mho、さらに18 MLT で3 mhoを得た。また、夜の時間帯では約3~10mho の間の値となった。見積もりしたCowling 電気伝導度の値は、Tsunomura [1999]のモデル計算値とよい一致を示した。このPC5磁気脈動の電場は、平成26年度にサブストームの解析で得た電場の約1.5倍であった。サブストームのように事象の継続時間が長い場合、電離圏組成の変動の影響を受け、電離圏の上下運動が抑制されることを示す結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 平成26年度に得られた、HFドップラーサウンダー(HFD)で観測される電離圏の上下運動から電離圏における圧縮性MHD波の電場の寄与に関する解析結果を今年度米国地物学会誌に発表した。 2. HFDによる電場観測の精度を検証するにあたり、2003年10月に発生した極から中低緯度赤道までグローバルに長時間継続して発生した赤道ジェット電流(EEJ)のPC5地磁気脈動の事例に着目して解析を行なった。これにより、年度当初に検討していた方法より、統計的に高い精度で電場とEEJの定量的関係式を得た。この関係式から、多点の赤道の磁場観測から電場強度を計算し、電場強度の地方時分布を推定する見通しを得た。 3. 上記PC5地磁気脈動の事例について、朝夕にROCSAT衛星で同じ周期性の電場変動が観測され、ROCSAT衛星の電場の南北成分とHFDの東西向き成分からDP2型の電場の空間分布を推定出来ることを確認した。ROCSAT衛星がHFD観測点を通過する時間帯の電場の東西成分を用いて、HFDの電場強度の定量的な評価を実施中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に得られたHFドップラー(HFD)による電場とEEJによる磁場の関係式を用いて、磁気嵐中の赤道磁場変動から電場変動を推定し、その地方時依存性を調べる。定量的関係式には、極から赤道への伝搬による電場強度の減衰や地電流の影響などにいくつかの仮定を含んでいるため、まず以下の2つの方法で、関係式の定量的な検証を行なう。 1. チェコ電離圏物理研究所のBuresova氏らからチェコ、チリ、南アフリカ、台湾のHFD観測データの提供を受け、2015年6月に発生した磁気嵐の電場の昼夜同時観測のデータ解析に着手した。これらのデータ解析により、日本で導出した太陽天頂角依存の関係式を検証する。電離圏電場の多点同時観測はこれまであまり例がなく、地方時特性などのグローバル電場分布が得られると期待される。 2. HFDは電場変動の周期が長くなると小さく見積もられる傾向があるため、ROCSAT衛星がHFD観測点を通過する時間帯の電場の東西成分を比較して、HFD電場の定量的な評価を行なう。これまで、ROCSAT衛星とHFDで同じ周期の電場変動が観測された事例で、ROCSAT衛星の東西および南北電場成分とHFDの東西電場成分からDP2型の電場分布を推定出来ることを確認した。 上記手法で評価した関係式を活用し、磁力計、HFD、ROCSAT衛星を合わせて解析し、磁気嵐時の中低緯度、赤道域の電離圏電場の2次元分布を推定する。そして、SuperDARN等のネットワーク観測データも合わせて、磁気圏起源の電場が極域電離圏を経て低緯度赤道まで伝搬する全過程の描画を試みる。また、これまでに確認したDP2電場やSC電場のevening anomalyなどの特性と磁気嵐中の電場特性の類似点と相違点を調べ、磁気圏電離圏電流系や電磁エネルギー伝搬モードについての考察もおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、米国地球物理学会誌への論文投稿料が、当初の見込みより高額になったため、他の研究費から支出を行なった。そのため、本研究課題の予算に余裕ができた。
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次年度使用額の使用計画 |
現在、執筆中の論文2本の投稿料が平成28年度に発生する見込みであるため、残金を平成28度予算と合わせて使用する。
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