研究課題
原生代中期の海洋の酸化還元状態を解明することは、微生物から多細胞生物への生命進化を知る上で非常に重要である。この時代の深海は、長期に渡り嫌気的で鉄に枯渇したsulfidic な状態が続いたとされているが、その証拠は乏しく、定量性はもちろん、その存在さえ未解明である。生命進化の鍵となる海洋の酸素濃度の変化は、遷移金属元素などの微量元素の組成に反映される。中でも鉄は、酸素濃度の変化に敏感な元素であり、炭素・窒素と共に生物の必須元素の一つである。本研究では、原生代中期の堆積岩に含まれる個々の黄鉄鉱の鉄同位体比を測定することで当時の海洋の酸化還元状態を解明し、海洋が長期的に sulfidic であったかどうかを検証する。また、全岩の炭素・窒素同位体比を分析することで、その海洋環境における微生物活動の変動を検証する。平成26年度は、オーストラリア地質調査所で採取済みの海洋深部および中深部の掘削試料を使用して、黄鉄鉱の鉄同位体比の局所分析と有機窒素・炭素同位体比の測定を行い、分析結果を得た。岩相から推定した海洋の深度と、黄鉄鉱の鉄同位体比の結果を組み合わせて鉄同位体比の分布の違いをみると、少なくとも17-16億年前の海洋深部は太古代と同様に二価鉄に富むferruginousな状態であったことが示唆される結果となり、長期に渡ってsulfidicな状態が継続したわけではないと推定された。また、海洋深部と中深部の窒素同位体比の違いから浅海部分は安定して酸化的な状態であったことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度の前半は、すでに入手済みの中期原生代の海洋深部の掘削試料、99試料を使用して黄鉄鉱の局所鉄同位体分析用の岩石薄片の作成と鉄同位体比の測定および解析を行った。また、これらの掘削試料の全岩の窒素・炭素同位体比の測定用に岩石粉末を作成し、酸処理を行い、JAMSTECの分担研究者のもとで全岩の窒素・炭素同位体比の測定を行った。掘削試料の鉄同位体比と窒素同位体比の測定については、ひととおりの分析は終了し、議論に必要なデータの取得も順調に進展している。現在は、鉄同位体比と窒素同位体比の結果を用いて当時の海洋の酸化還元状態についての議論を進めているところであり、この結果から論文を作成し、国際学術雑誌に投稿する予定である。当初、平成26年度に予定していた北オーストラリアにおける地質調査は該当地域の調査可能時期にメンバーの予定を合わせることができず実現できなかったが、平成27年度に実施する予定である。詳細については次の項目で記述する。
これまでの結果に環境の炭素同位体比の指標である無機炭素同位体比の測定を加えることで有機炭素同位体比の結果から当時に微生物活動についての議論を行うことができる。無機炭素同位体比の測定は平成27年度の前半に行う予定である。平成27年度に行う最も大きな研究内容はオーストラリアにおける地質調査である。平成26年度は北オーストラリアで調査可能な6月上旬から9月末の間に調査メンバーの予定を合わせることができず、平成27年度に延期することとなった。そのため、平成26年度に残額が発生し、平成27年度に繰越しを行った。地質調査と17-14億年前の浅海堆積物岩石採取は、平成27年度以降の6月下旬から7月中旬にかけてオーストラリア北部準州、マッカーサー盆で行う予定である。採取した岩石は船便で日本に輸送する。研究遂行上の課題:オーストラリア北部準州での地質調査はアボリジニ居住区や国立公園など、岩石採取が困難な場所が多い。現在、4か所の調査地点を選出し、調査地に対する情報収集および許可の申請を行っているが、すべての地点で調査を行えるかどうか不確定であるため、掘削試料を入手することで補足する予定である。平成27年度に入手した岩石が到着した後は、岩石薄片の作成や岩石粉末を作成して、これまでに分析した掘削試料と同様の手順で鉄、窒素および炭素同位体比の測定を行い、深度を考慮した海洋の酸化還元状態の推定を行う。
平成26度は地質調査を行うメンバーの予定を合わせることができなかったため、北オーストラリアにおける地質調査を平成27年度に延期した。繰越額が生じたのはそのためである。予定していた地質調査は平成27年度の6月下旬から7月上旬にかけて行う予定である。
オーストラリア地質調査所にはこれまで学術的、資源探査などの目的で掘削された掘削試料が保管されており、研究目的が適切と判断された場合は、試料を入手して測定を行うことができる。今回の調査では露頭の岩石だけでなく、この掘削試料を入手することも計画している。そのために必要な費用(渡航費、宿泊費、レンタカー使用料、地質調査所の施設利用費、試料の輸送費など)は、平成26年度の繰り越しと平成27年度の予算の一部を充当する予定である。
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