研究課題
原生代中期の海洋の酸化還元状態を解明することは、微生物から多細胞生物への生命進化を知る上で非常に重要である。この時代の深海は、長期に渡り嫌気的で鉄に枯渇したsulfidic な状態が続いたとされているが、その証拠は乏しく、定量性はもちろん、その存在さえ未解明である。生命進化の鍵となる海洋の酸素濃度の変化は、遷移金属元素などの微量元素の組成に反映される。中でも鉄は、酸素濃度の変化に敏感であり、炭素・窒素と共に生物必須元素の一つである。本研究では、原生代中期の堆積岩に含まれる個々の黄鉄鉱の鉄同位体比と全岩の炭素・窒素同位体比を分析することで、当時の海洋の酸化還元状態を解明し、海洋が長期的にsulfidic であったかを検証し、その海洋環境での微生物活動の変動を検証する。平成27年度は、6月から7月にかけてオーストラリア、北部準州ダーウィンのオーストラリア地質調査所に赴き、新たに3本のドリルコア試料(Jamison-1, McA5, 14MCDDH002)から200試料を採取した。これにより、前期原生代(17億年前)から後期原生代の初め(13億年前)までの期間に渡る岩石試料をほぼ入手した。採取したすべての試料から岩石薄片・岩石粉末を作成した。作成した薄片試料のうち1640Ma付近のドロマイト試料の一部を利用して、LA-ICPMSによる微量元素測定を行った。また、窒素・炭素同位体比を測定するため、岩石粉末試料の酸処理などの測定準備を行った。現在、海洋研究開発機構で測定中である。
3: やや遅れている
当初は、平成27年度に採取した試料の岩石薄片を作成したのち、薄片中の黄鉄鉱の鉄同位体比を測定する予定であった。鉄同位体比の測定にはフェムト秒レーザーとマルチコレクター誘導結合プラズマ質量分析計(MC-ICP-MS)の両方が必須であるが、平成27年9月にフェムト秒レーザーが故障した。復帰後測定する予定でいたが、現在も復帰していないため鉄同位体比の測定が行えない状態が続いている。現在鉄同位体比に替わる方法を模索中である。
平成27年以降、北オーストラリア地質調査所とやり取りを進め、現地で行われた研究発表会にも参加した。その後、研究者や現地の企業との連携が取れるようになり、試料についての情報や状態のよい試料を入手できるような関係を築くことができた。平成28年度も昨年に引き続き、ドリルコア試料の採取のためダーウィンのコア保管施設に赴く予定である。平成27年度に一部入手済みのJamison-1からは残りの部分から50試料を追加採取し、14-13億年前の堆積物試料を連続的に採取する。また、16億年前の試料についてはより低変成度のドリルコアから採取する許可を得た。このコアから約20試料採取する予定である。帰国後は試料の岩石薄片と岩石粉末を作成する。フェムト秒レーザーが復帰し、測定可能になれば黄鉄鉱の鉄同位体比を測定する。また、追加採取する試料の全岩の窒素・炭素同位体比を測定し、中期原生代全体の化学層序をまとめあげ、環境の酸化還元状態と微生物活動の変遷について総合的に議論する。
平成27年度に予定していた地質調査の代わりに、オーストラリア北部準州の地質調査所が保管しているドリルコア試料を使用したため、地質調査にかかる費用を削減できた。地質調査は堆積環境の復元のために非常に重要ではあるが、北部準州の特異性(アボリジニ居住区、聖域の存在と許可を得ることの困難さ)、現地の気候による調査期間の制約などから、より多くのドリルコア試料を採取し、有効に活用する方が利点が多いと考えた。
平成28年度6月4日から16日の日程で、オーストラリア、北部準州、ダーウィンにあるコア保管所に出向き、状態のよい4本のコアから鉄同位体比および窒素同位体比の分析に必要な試料を追加採取する。平成27-28年度に採取した試料の分析結果を国内および海外の学会で発表する。
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すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件)
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