研究課題
平成28年度には北アルプス上高地周辺において地表踏査,補完的なハンドオーガーボーリング掘削,今後の調査のための予察的調査を行なった.得られた成果は次のようにまとめられる.(1)上高地周辺の美濃帯の地層は北東ー南西方向の走向をもち北西に傾斜するが,明神ー徳沢間の山裾では南東傾斜となる.これは,表層の地層が岩盤クリープを起こしているためと解釈される.(2)徳沢上部の長塀尾根の標高2000m付近と,徳本峠北東の古池周辺(標高約2150m)の二重山稜地形の凹地埋積堆積物をハンドオーガーボーリングにより掘削した結果,前者は細粒風成堆積物により遅い堆積速度で埋積されているのに対し,後者は粗粒火山性堆積物により急速に埋積されていることが明らかとなった.これは,焼岳火山からの距離と方位の差によるものと解釈され,火山防災上重要な知見である.(3)標高の異なる(500m~2000m)美濃帯のジュラ紀付加体に発達する山体重力変形地形の発達過程を比較すると,その発生と周辺環境の変化(例えば森林限界高度)は,標高によって大きく異なることが明らかとなった.3年間の研究期間を通じて明らかとなったことは,深層崩壊が発生する場にはほぼ確実に山体重力変形地形が発達しているが,全ての山体重力変形地形が深層崩壊の短期予知に有用な前兆現象とは言えないということである.例えば,紀伊半島ツエノ峰の二重山稜地形は過去10万年間安定して存在していたし,越美山系の二重山稜地形にも過去1万年間安定であったものが多数発見された.今後はそれらの識別を行うための研究が必要である.
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Gondwana Research
巻: 33 ページ: 92-114
10.1016/j.gr.2015.06.013