研究課題
本研究は火山活動史研究に古地磁気変動を利用できることを示すのが目的である。第一段階として阿蘇火山中央火口丘群の溶岩流の古地磁気学的研究を進めている。本年度は、特に、鬼界アカホヤテフラ(7300 年前)以降に流出した、阿蘇中央火口丘北西部の玄武岩溶岩の古地磁気測定を行った。この地域には、3Ka前後に噴火した、杵島岳、往生岳、上米塚、米塚の溶岩と上米塚スコリア丘が区別されており、地質図も出版されている。まず、露頭のサーベイを行い、杵島岳溶岩7サイト、往生岳溶岩10サイト、米塚溶岩6サイト、上米塚スコリア丘1サイトの、計24サイトの試料を採集した。磁化は一般に安定で、交流消磁で容易に特徴磁化の同定が可能であった。方位のサイト内での集中は非常に良く、α95はほとんどのサイトで4度以下で、2度を切るサイトもあった。並行して、玄武岩火山体自身の磁化による、現在の磁場の歪みの試料のオリエンテーションに及ぼす影響を見積もる実験を行った。各試料のオリエンテーションに磁北でなく太陽方位などを用いることはなされてきたが、磁北を用いるのに比較して精度が悪い。それらの実験から、個々の試料は磁北を基準としてオリエンテーションを行い、露頭のできるだけ近くで太陽観測などから現在の偏角を決定して、補正する方法が最適であるとわかった。この偏角測定の手法を幾つか比較し、簡易トランシットで太陽方位を測定するのが最も簡便であったので、各サイトで行い、結果の補正を行った。補正後の古地磁気方位を比較すると、同一とされてきた溶岩で、100年程度以上の時間隔てた複数枚の溶岩流を認識できること、分類境界が先行研究と異なることなどが、分かってきた。また、永年変化の方位変動は、時代は違うが、AD400~900の考古地磁気による永年変化との類似が見られ、本研究の溶岩も、500年間程度の期間に噴出したものと考えられそうである。
2: おおむね順調に進展している
手法の確立と、一地域での古地磁気方位を用いた研究でひとまとまりを得られたことから、予定通りの達成度を得ていると考えている。研究成果は、地球惑星科学連合大会、地球電磁気・地球惑星圏学会などで、報告した。また、関連研究を含めて、論文を投稿中、執筆中で、来年度中には出版を予定している。
本年度の成功に基づいて、(1)阿蘇中央火口丘北西部玄武岩溶岩研究の、幾つかの問題点を解決する研究手法の開発、(2)各溶岩の岩石学・地球化学的特徴を古地磁気方位の分類に基づいて見直す、(3)他地域での適用を試みる、(4)より新しい溶岩の場合、考古地磁気永年変化との関係を見る、などの発展を考えている。具体的には、(1)同一の古地磁気方位を持つ試料が、明らかに岩石学的に異なる場合もあった。これらの試料から古地磁気強度も測定することで、年代の弁別能力が改善する可能性がある。古地磁気強度研究は、本研究室での経験も豊富であるので、トライして行きたい。(2)岩石学・地球化学データには分散がつきものであるが、古地磁気方位のグルーピングで分類した時に、分散度が改善するかどうかを見ていく。これは、これらのデータの分散の起源の問題にも参考になると考えられるので、対応する試料の分析を進めたい。(3)現在、伊豆、伊豆大島などの試料の採集を予定しており、適用していきたい。(4)本研究を企画して気がついたのであるが、歴史溶岩の古地磁気方位研究は、わが国の古地磁気研究の黎明期に幾つかあるのみで、その後あまりなされていない。一方、過去2000年の考古地磁気データの再収集とまとめは、近年進んでおり、溶岩の古地磁気を測定すれば、すぐ対比できる体制が整いつつある。地震史・津波史の研究とともに噴火史の研究の必要性の認識がされて来ていることから、過去2000年間の溶岩の年代決定が可能であれば重要な貢献ができると考えている。現在、適当な溶岩について検討している。
残額は些少であり、残額のみの執行は非効率であったため。
残額は些少であるので、来年度の使用の一部として効率的に利用する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (14件)
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