研究課題/領域番号 |
26400490
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
渋谷 秀敏 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 教授 (30170921)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 火山層序 / 古地磁気学 / 古地磁気層序 / 地磁気永年変化 / 考古地磁気学 |
研究実績の概要 |
本研究は火山活動史研究に古地磁気変動を利用できることを示すのが目的である。第一段階として、阿蘇火山中央火口丘群の溶岩流の古地磁気研究をまず進めた。初年度に見出した、K-Ah 以降の3Ka 前後に噴火した、中央火口丘北西部の玄武岩質火山の対比については、第2年度に測定を追加し、本年度はそれらのデータを精査するとともに、サイトの現在の地球磁場方位を再確認するなど行った。その結果、極めてスムーズな地磁気永年変化曲線を描くことができた。この永年変化曲線の年代は必ずしも定かではないが、これまでの知見から4000BPから3000BP頃のものと思われ、変化速度も考古地磁気学によって知られている過去1600年間の永年変化と調和的であった。その結果、各サイトで採集された溶岩の順序と凡その年代を見積もることができた。これまでの地質学的な研究では、本地域では、杵島岳・往生岳・米塚の順に噴火し、溶岩流もそれぞれに対比して分類されていた。しかし、今回の結果は、杵島岳・往生岳溶岩の分類と古地磁気方位の対応が合わないサイトもあって、分類の再考を促すものとなっている。また、対応関係が不明であった上米塚が米塚と比較的近い年代に生成されたことが、古地磁気方位から明らかになった。これらの試料についての古地磁気強度測定も進め、極めて質の良いデータを得ることができた。これは、古地磁気方位の重なる火山岩を弁別する手法として古地磁気強度が利用可能であることを示すものである。
当研究室では、並行的に考古地磁気測定を行って来た。昨年度は5世紀から9世紀の考古地磁気試料の測定で永年変化曲線を描いたが、岡山理科大学の畠山博士が収集した5~19世紀のデータを用いて、同じ手法で永年変化曲線を描くことに成功した。これは、今後の他の地域の歴史溶岩の年代決定に大きく寄与できると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
データの精査と現在の地磁気方位の測定で当初最も重視していた火山群についての方位の対比が明白になったのことは、計画通りに進んだ。また、古地磁気強度測定もほぼ終わり、3次元ベクトルデータとして与えることができたのは、他の火山での研究のモデルケースとなろう。また、過去1600年間の考古地磁気永年変化曲線を描くことができたのも、達成できたことであった。ただ、熊本地震の影響で実験が滞ったり、阿蘇火山地域へのアクセスが難しかったりで、もう少しの詰めが必要な状況であるのは残念である。
サブテーマとして掲げたいてテフラとの対比については、本年度は伊豆大島・支笏火山などでサンプリングを行った。古地磁気記録の安定性を確認して、昨年度測定した阿蘇地域の結果と合わせて有望であることは確認したが、溶岩との対比が明確になるには至っていない。
研究成果の報告は、地球惑星科学連合大会、地球電磁気・地球惑星圏学会、American Geophysical Union などで、報告した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度からの推進の予定のうち、他地域での適用については、テフラの古地磁気については進捗があったが、溶岩の古地磁気については、あまり進めることができなかった。ここ3年間で、火山層序学への古地磁気学の応用について理解が広がり、伊豆大島や富士山なのでの研究を、他のグループが行っている。それで、他のグループの研究との住み分け等検討している段階である。富士山については、山梨県富士山科学研究所との共同研究を進める予定で、本研究で得られた結果との対応や、考古地磁気と阿蘇玄武岩質溶岩のギャップを埋める結果などを期待している。また、同試料からの古地磁気強度研究も進めるべく準備している。
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次年度使用額が生じた理由 |
熊本地震発生時の測定装置への影響は比較的軽微で、大きな修理は必要ではなかったが、キャリブレーションなどで数ヶ月間測定することができず、測定が遅れた。また、試料採集や以前に試料を採集した地点での地磁気偏角測定や、溶岩層序の確認などの野外調査は、阿蘇中央火口丘への立ち入りが不可能で、長期間行うことができなかった。それで、研究費の執行も遅れており、次年度への繰越が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
試料採集などの野外調査旅費、学会発表旅費に使用する予定である。
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