本研究では爆発的水底噴火モデルの構築に向けて各年度に1つずつ代表的事例をとりあげて、噴出物から読み取れる噴火プロセスを検討した。初年度は、島根半島諸喰の、水深200m以深で放出された水冷火山弾とその破片をとりあげ、気孔数密度分布と孔隙率、産状などから、それらが陸上のストロンボリ式噴火と同様の噴火プロセスで生産された可能性が高いことを示した。次年度は島根半島佐波湾で見つかった海底複合火砕丘の断面をとりあげ、そこに凍結されている気泡の成長・合体に伴う噴火プロセスを記述するとともに、水中に放出された火砕粒子が火道内で形成された火砕粒子よりも細かく粉砕されていることを見出した。これは、噴煙が水中に放出され密度流となって流下する過程で水を取り込み、それが急激に体積膨張して粉砕を促進したことを示唆する。最終年度は、奥尻島勝澗山火山から繰り返し噴出した火砕サージ堆積物を調べた。この火砕サージは破断面に囲まれた流紋岩パーライト片からなるが、個々の破片内部に生じた真珠岩様割れ目を粒子表面の破断面が切っている。また、火砕粒子に含まれる構造水のD/H比は外来水とメルト/ガラス中のOHとの間で水素同位体交換が高温で起こったことを示唆する。真珠岩様割れ目は、高温のメルトが水に接して水冷破砕し、水和するにつれてガラス転移温度(400~500°C)付近まで冷えて膨張、破断して生じる。地下の閉じた系でこれが起こると、外来水が加熱されて生じた水蒸気が割れ目内にとどまって内圧を高め、マグマ上昇に伴う圧力変化や振動が引き金となって爆発に至る可能性が高い。このようなメルト/ガラスと外来水との爆発的反応は後続のメルト/ガラスが次々と外来水と接触すれば繰り返し起こりえる。本研究でとりあげた爆発的水底噴火の3つの事例は、火道内でのプロセスに加えて、噴煙及び溶岩内部に取り込まれた外来水の果たす役割が重要であることを示す。
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