本研究は「日本列島における長期的(数千年~数百年オーダー)水収支変動を予測するための作業仮説を設定し、それを検証する研究を実施する」ことを研究目的としている。その仮説とは、「日本列島日本海側地方の水収支は東アジア地域のモンスーン活動の影響を強く受けているということ、そして、それは琵琶湖の湖水面高度の変遷史として記録されている。」というものである。 今回の研究において、湖琵琶湖水位変動史を詳細に検討した結果、氷期の湖水面高度上昇期と北部大西洋で発見された急激な寒冷化事件であるハインリッヒイベント期とが対応している一方、1.5万年以降は寒冷期に湖水面高度が低下していることが明らかになった。そのメカニズムとして、氷期の急激な寒冷期には日本海を渡る冬季季節風が強化し、それによって日本列島日本海側そして琵琶湖流域の降雪量が増加し、その結果琵琶湖の水収支がプラスに転じ、湖水面が上昇したと考えた。逆に、1.5万年前以降は冬季季節風の影響が夏季季節風の影響を下回るようになり、温暖期の夏季季節風によりもたらされた降水量の変動が冬季季節風によってもたらされる降雪量の変動を上回るようになったと考えた。 北部大西洋で観察される急激な寒冷化現象であるハインリッヒイベントと琵琶湖の湖水面高度変遷が同調する原因として、偏西風帯の南北シフトによる冬季季節風の影響範囲の南北シフトを考えた。その根拠として琵琶湖中央部で採取された高島沖コアの生物源シリカ濃度および全炭素濃度の変遷があげられる。つまり、琵琶湖高島沖コアには琵琶湖周辺域の古気候変遷が記録されており、北部大西洋の寒暖変動(ハインリッヒイベントやダンスガード・オシュガーイベント)に対応可能であり、それは偏西風帯の南北シフトにともなって伝達(テレコネクション)したと考えられる。
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