研究課題/領域番号 |
26400498
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
棚部 一成 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 研究員 (20108640)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 系統進化 / 多様性 / 軟体動物 / 頭足類 / アンモノイド類 / 白亜紀 / 捕食-被食関係 / 食性 |
研究実績の概要 |
1.アンモノイド類の比較形態学・古生態学的研究 竹田裕介氏(東大大学院博士課程院生)らと共同で、北米内陸部上部白亜系産のスカフィテス科アンモノイド類の成熟殻に特徴的に認められる破壊痕を定量的に調べた。破壊痕は筋肉部位に相当する住房腹面部に集中することや修復の痕跡がないことから、それらは捕食者(魚類、オウムガイ類、小型爬虫類などが想定)による致命的な被食痕であると認定された。スカフィテス類の成熟殻は時代的に大型化するが、これに対応して時代的に致命的被食痕の大きさは大型化し、被食痕の出現頻度も増加する傾向が認められた。この成果は、国際誌Lethaiaに公表した(Takada et al. 2015)。 さらに、申請者は、徳島県および兵庫県淡路島の上部白亜系和泉層群から産出したノストセラス科異常巻きアンモノイドPravitoceras sigmoidale 2標本の住房中に原位置で保存された顎器を見いだし、その形態学的特徴を記載した。本種の顎器の先端部は咀嚼に適した突出した形状を示すことから、肉食性の食性が示唆された。この成果は、国際誌Journal of Paleontologyに公表した(Tanabe et al. 2015)。 2.同位体地球化学分析に基づく前期白亜紀アンモノイド類の生活史に関する研究 ロシア科学アカデミーの研究者らと共同で、マダガスカル島産の初生的殻構造と鉱物組成を残した前期アルビアン(前期白亜紀)アンモノイド類について、殻の酸素・炭素同位体比とストロンチウム同位体比を分析し、各種の殻形成時の古水温を復元し、生息深度や生活史を推定した。この成果は、国際誌Cretaceous Researchに公表した(Zakharov et al. 2016)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度から引き続いて実施されたアンモノイド類の顎器に関する比較解剖学的研究に加えて、アンモノイド類の生活史や他の動物との捕食-被食関係に関する研究が進展し、新しい重要な成果が得られたため。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度には白亜紀アンモノイド類の殻に残された致命的被食痕の解析が進展し、白亜紀後期の海洋生態系の高次捕食者間の捕食-被食関係の進化に関する研究への基盤が構築された。これらの研究を基礎として、今年度は古脊椎動物学者の協力を得て海生爬虫類と頭足類(アンモノイド類や大型鞘形類)との間の捕食-被食関係を示す直接的な証拠の探索を進め、白亜紀海洋生態系の生物相の生態学的変遷の実態の解明を目指す。さらに、保存のよいアンモナイト化石試料の高分解能同位体比分析を行い、これまで不明であったアンモノイド類の初期生活史と生息環境を復元し、それらと海洋無酸素事変や大量絶滅事変などの大規模海洋環境変動との関連性を明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度当初、アンモノイド類の初期生活史と繁殖生態を安定同位体比分析により明らかにする目的で、初生的な微細構造とアラゴナイト質鉱物組成の殻を保存した胚殻および孵化直後の幼殻を採集する目的でポーランド国の中生界を調査する計画を立て海外旅費を計上していた。しかし、現地案内を予定していたポーランド科学アカデミー古生物学研究所のA. Kaim博士との日程調整がつかず、出張できなかった。そのため、次年度使用額(381,922円)が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の8月下旬に、初生的な微細構造とアラゴナイト質鉱物組成の殻を保存したアンモノイド類の胚殻および孵化直後の幼殻を採集する目的でポーランド国に出張予定で、次年度使用額をそのための旅費に使用予定である。すでに現地案内者のKaim博士とは出張日程について相談し、了解済みである。
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