研究課題/領域番号 |
26400499
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
栗原 敏之 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (10447617)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 放散虫 / 生息深度 / 機能形態 / 収斂 / 白亜紀 |
研究実績の概要 |
後期白亜紀放散虫の生息深度分布を明らかにすることを目的とする本研究では,交付申請書の実施計画に則り,平成26年度は次の検討を行った.(1)愛媛県新居浜地域に分布する和泉層群における深海性の主部相と浅海性の北縁相の放散虫化石群集組成の比較,(2)オマーンオフィオライトの深海堆積物(スヘイラ層)についての現地地質野外調査と放散虫生層序・群集組成の検討.なお,オマーンの現地調査は当初計画では14日間していたが,より詳細な検討を行うために23日間に変更した.これに伴い,和泉層群の現地調査は日数を短縮し,既存試料を中心に検討を行った.(1)の結果,主部相の群集は塔状Nassellariaを主体とするのに対し,北縁相ではごく少量のNassellariaと多量の円盤状Spumellariaからなる群集が見出された.この顕著な群集の相違から,円盤状Spumellariaがより浅海を生息深度としていたことが推定できる.(2)では,オフィオライトの噴出溶岩層上に重なるスヘイラ層の主要露出地で1/1,000スケールのルートマップ・1/100スケールの柱状図を作成し,併せて試料採取を行った.既存試料の検討結果と合わせると,スヘイラ層の年代は後期Cenomanian~Turonianで,特に両階の境界付近における著しい群集組成変化の実体が詳細に明らかになった. X線マイクロCTによる放散虫化石の3次元数値データ解析に向けた検討も進め,今年度は上記のスヘイラ層産のCenomanian~Turonianの代表的な種のデータを取得した. なお,平成27年以降に実施を予定している四万十帯の後期白亜紀珪質岩の試料については,複数の研究候補地のパイロットサンプルを検討した結果,幾つかの地域では保存良好な化石が得られなかった.これについては計画の変更を要する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は「研究の目的」に記載した(1)同時代の浅海・深海堆積物中において放散虫化石群集の比較に基づき種毎の生息深度分布を推定する,(2)骨格の機能形態的な収斂について,生態の明らかな現生の表層種と形態の類似する絶滅種との比較をX線マイクロCTによる3次元数値データを用いて検討する,のうち,(1)について重点的に検討を行った.(1)に係わる本年度の検討項目については,ほぼ計画通り実施し,研究実績に記載した通り一定の成果を得た.特にオマーンオフィオライトの深海堆積物(スヘイラ層)については,放散虫化石の群集組成が明らかになったことにより,堆積年代を詳細に決定することができた.この成果については,2015年3月22日~26日にトルコ(アンタルヤ)で行われた14th INTERRAD (International Conference on Fossil and Recent Radiolarians)にて発表した(Kousuke Hara and Toshiyuki Kurihara: Radiolarian biostratigraphy of the Suhaylah Formation (Upper Cretaceous) in the Oman ophiolite).
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究実績で記した通り,和泉層群における放散虫化石群集の比較検討からは,生息深度分布を知る上で手掛かりとなる表層生息種の識別について重要なデータが得られた.平成27年度研究予定地域(観音寺地域)の試料も研究協力者から既に提供を受けており,今後も引き続き既存試料ベースで表層種の識別を進めていく.オマーンオフィオライトの深海堆積物(スヘイラ層)については,群集組成と年代決定に有効な種の層序分布と分類が把握されたため,今後は平成26年度に採取した試料を用い,表層種と推定される円盤状Spumellaria等の検討を主に行っていく. 平成27年度に遠洋深海の堆積物として検討を予定していた四万十帯については,交付申請書に記載した高知県手結メランジュ・芸西メランジュ中の後期白亜紀珪質岩をパイロットサンプルにて検討した結果,群集解析が可能な保存良好な化石は得られなかった.この問題への対応として,紀伊半島東部の四万十帯(三重県鳥羽地域のCenomanian~Turonianのセクション)と北海道蝦夷層群の上部白亜系を新たな検討対象とすることで,目的の達成を目指す.特に蝦夷層群については,これまで詳細な研究が行われていない放散虫化石を産するCenomanian~Coniacianのセクションがあり(新冠地域の新冠ダム東岸),平成27年度中に現地野外地質調査を行う. X線マイクロCTによる放散虫化石の3次元数値データについては,平成26年度でデータの質についての情報が得られたので,今後は表層種と推定される円盤状Spumellariaを中心に標本数を増やす.3次元データから得られる各種計測値に基づき,殻形態の生態的な最適化の条件や流体力学的な特性を検討していく.
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