研究課題
本研究の目的は、古海洋環境の復元に広く使用される浮遊性有孔虫の炭酸塩殻の安定酸素・炭素同位体比について、その精度を高めることである。これまで、浮遊性有孔虫は共生藻を持つため、炭酸塩殻の形成に生物学的効果が大きく関与しており、そのメカニズムはブラックボックスのままであった。そこで、浮遊性有孔虫の生体試料を採取し、まずそれらの遺伝的種、各々の種がもつ共生藻種の同定を行う。その上で、殻の形態と安定酸素・炭素同位体比を分析し、生物学的効果を精査する必要がある。初年度の研究で、同一個体から遺伝子と殻を分離し、各々の分析を行う手法の確立に取り組んだ。こうしたデータを精査した結果、いくつかの問題が生じ、平成27年度に行った研究によってそれらを解決するに至った。(1)問題:遺伝子抽出の過程における試薬・加熱処理が、殻へ物理的に影響を及ぼさないことを精確に検証するには、標準物質を用い、実際の試料と比較する必要がある。しかし、これまでのマイクロフォーカスCTスキャンでは、機械上の性質から測定時の誤差が大きかった。解決法・結果:機械上の問題、また精巧な標準物質との同時測定を可能にすることによって、高精度に殻の密度を計測することができるようになった。また、遺伝子抽出の諸過程は、殻へ物理的ダメージを与えないことがわかった。(2)問題:殻試料をマイクロフォーカスCTスキャンで密度測定、形態計測を行うにあたり、試料台に殻を固定するため用いた接着剤が、微量の同位体分析に影響を及ぼしている事がわかった。解決法・結果:接着剤そのもののリン酸反応を試験し、影響を及ぼさない物質を採用することにより、正確な同位体分析が可能になった。これらの問題解決を受け、季節別に採取した浮遊性有孔虫の試料の再測定、また新規試料の分析を進めている。
3: やや遅れている
本研究は、遺伝子解析・殻の形態計測および同位体比の分析を行い、これらの結果を複合的に検証していく。各々の分析で、これまでにない高精度の結果が必要であるため、手法の諸問題を解決していくことは非常に重要である。さらに、分析数を増やすことも必要であるため、各々の手法での効率化も注力している。実際に、マイクロフォーカスCTスキャンの分析は以前より格段に正確かつ効率化した。しかし、まだ同位体比への生物学的効果を評価するにはデータが蓄積されていない。
これまでに得られた実験手法の確立について、学会・国際誌に成果発表を行う。本研究の主目的である同位体比への生物学的効果を評価するため、季節別の浮遊性有孔虫試料の諸分析を精力的に進め、成果をまとめる。
当初予定していた実験において、手法の確立に再測定・再分析が必要になり季節別の試料の分析数が少なかった。このため、次年度使用額が生じた。
次年度使用額は平成28年度請求額と合わせて、季節別の試料の分析を完遂に使用するとともに、これらの分析で得られた成果の学会発表、論文発表に使用する計画である。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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