研究課題/領域番号 |
26400502
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
生形 貴男 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00293598)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 異質性 / 多様性変動 / 大量絶滅と回復 / 形態空間 |
研究実績の概要 |
地質時代ごとの特定の古生物グループの形態的多様性(異質性)を評価する尺度として,形態空間における分布の均等度を導入した。この方法では,ある種の形状を代表するパラメター値を計測し,その値に対応する形態空間中の一点の上に,多次元正規分布を基底関数としたカーネルを種の豊富度に見合った高さに積み上げ,積み重ねてできた確率密度の2乗を重積分した値に形態空間の広さを掛けた値で分布の偏りを表し,その逆数として形態的均等度を定義する。 この形態的均等度を用いて,デボン紀から白亜紀のアンモノイド類の異質性の変動を解析した。オンラインデータベースであるPaleobiology Databaseに階毎の産出コレクション数の記録が登録されている3298種について,実際の標本およびモノグラフ等の文献に掲載されている写真から,螺旋の拡大率,臍の相対的な広さ,螺環の相対的な厚みを計測し,上記の方法で時代毎の形態的均等度を求めた。また,従来の形態的多様度の指標として,形状パラメター値の分散和も計算し,形態的均等度と比較した。 その結果,分散和による異質性と形態的均等度の変動パターンが必ずしも一致するとは限らないことが分かった。例えば,ペルム紀のG/L境界や三畳紀末の大量絶滅事変では,いずれの尺度で見ても異質性が大きく減少している。これに対して,ペルム紀末の大量絶滅後の三畳紀前期~中期では,分散和で評価した異質性はなかなか回復しないように見えるが,形態的均等度で評価すると回復は速やかに見える。形態的均等度は形のバリエーションの豊富さを表すことから,三畳紀前期には急速に様々な形態が現れたものの,系統的制約によって形態空間の特定の領域を中心とした一峰性の分布を呈するために,分散和で評価する異質性尺度では多様性を過少評価して,異質性の回復が遅れるという結論をもたらすのではないかと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究実施計画では,今年度は(1)試験解析用データセットの準備,(2)ノンパラメトリックな異質性尺度の導入,(3)形態的豊富度の評価方法の確立,の三つを予定していた。(2)については研究実績の概要で述べたとおり,新たな指標を導入し,試験的な解析を進めるに至っている。これに伴い,(3)に関しても,ブートストラップ法による無作為抽出によってサンプルサイズに異質性の評価が依存しない方法を採用している。(1)については,3次元計測においてはまだデータを量産できる段階に至っていないものの,2次元座標データとそこから計算によって求める理論形態パラメターのデータは3000種を超えるアンモノイドから得られており,様々な試験解析ができる状況が整っている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度にアンモノイドの形態的均等度の変動を再現したが,時代ごとの異質性自体は,大量絶滅直後であっても,回復が著しく早ければ見かけ上減少しない。つまり,多様度自体の変動は,絶滅と回復の規模と速度のバランスで決まる。これに対して,形態の分布に対する絶滅の影響の規模を評価するためには,種の回転に相当するような形態の入れ替わりの測度を導入する必要がある。そうした形態的な入れ替わりは,絶滅と回復が形態とは無関係に起こる場合と,特定の形態が絶滅時に間引かれやすいないしは回復期に増えにくいような場合とで,様相が大きく変わるはずである。それを客観的に判断するために,大量絶滅とその後の回復のプロセスをモデル化し,ランダム絶滅モデルや特定選択モデルなどを生成し,どのモデルが回復期の実際の形態空間分布を最もよく説明するのか,統計的モデル選択の手法を用いて評価することを試みる予定である。
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