分子雲内に存在する氷星間塵は,その表面上で生じる化学反応により分子の複雑化(化学進化)に貢献するだけでなく,星・惑星形成の初期段階として,それ自身が衝突合体することで大きな質量の塵へと変化していく質量進化にも寄与する.この,化学進化および質量進化という重要な宇宙化学・物理過程において,塵表面の主成分であるアモルファス氷の表面構造は重要な役割を果たす.しかし,アモルファス氷は周期構造を持たないため,表面構造解析の手法として良く用いられる各種回折法は適用できない.そこで,本研究では極低温原子間力顕微鏡を用いた実空間測定により,アモルファス氷の表面構造を調べることを目的とした.
初年度,次年度では,Si(111)7×7表面上にアモルファス氷を作成するときの温度・水蒸着角度・蒸着法(分子線・充満)・蒸着速度をパラメータとしてアモルファス氷のナノスケールの構造を明らかにしてきた.最終年度は,表面第一層の吸着状態はその後成長するアモルファス氷の形状に関する理解に重要な情報となるため,Si(111)7×7表面に解離吸着するH2Oの原子分解能観察を行なった.解離吸着したHとOHを区別するため,測定には接触電位差を利用したケルビンプローブ法を用いた.超高真空中で105Kに冷却したSi(111)7×7基板に0.1分子層程度のH2Oを蒸着し,形状像測定と同時に接触電位差測定を行なった結果,形状像では良好な原子分解能が得られるようになったが,同時に測定される接触電位差像については未だ原子分解能を得るには至っていない.今後、測定法の調整や装置の安定性の向上を行い,原子分解能を有した接触電位差測定の実現を目指したい. 本課題で得られた結果から,作成方法に依存した氷の表面構造が明らかになり,また,これらの知見はアモルファス氷を用いた様々な実験の結果を正しく理解するのに大きく寄与すると考えられる.
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