研究課題
ネパール・ダンクッタ地域に分布する主中央衝上断層(MCT)下盤側の電気石濃集岩や電気石脈を詳細に調べた結果、含B流体活動は下盤側の変成作用の昇温期~ピーク直後に起きたと判明した。MCT上盤側の高変成度片麻岩中に含B流体が流入した結果、部分溶融が誘発されて優白質花崗岩が生じた可能性がある。領家変成帯において、新期領家花崗岩起源の熱水流体と泥質変成岩の反応により形成された珪線石脈の成因を明らかにした。600℃、0.3GPa程度の条件下でa(Na+)/a(H+)、a(K+)/a(H+)およびa(Mg2+)/a(H+)が低い流体が流入すると、長石類・黒雲母を溶解して珪線石を作る反応が起こりうることを熱力学計算から示した。またその際に再結晶した石英は珪線石・白雲母を包有し、カソードルミネッセンス像の青色発光が弱い傾向があることも明らかにした。これは花崗岩周辺の泥質岩類に対する酸性流体の影響を評価するツールになり得る。また、領家変成帯のミグマタイト中のザクロ石-ジルコン間の希土類元素(REE)分配について検討を行い、微細組織の観点からは同時共存しているにもかかわらず、超高温変成岩中とは異なり、ジルコンの重希土類パターンはフラットにならず、REE分配係数も1に近づかないことを見いだした。これは、安易にジルコンのREEパターンを用いて高度変成作用のタイミングを制約することの危険性を示す。三波川変成帯国領川地域において、蛇紋岩と泥質岩の境界で含B流体活動により電気石濃集層が形成されたタイミングは、変成ピーク後の上昇期であったことがわかった。東南極セール・ロンダーネ山地パーレバンデの泥質片麻岩類の記録する温度-圧力-時間履歴の解析と含Cl流体活動のタイミング制約を試み、ピーク変成作用直後の約580Ma頃に700℃、0.7GPa程度の条件下で含Cl流体活動が起きたことを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
当初計画ではセール・ロンダーネ山地の試料については取り扱わない予定であったが、本研究の他地域からの知見との比較のためには、同じ基準・手法でのデータ取得が必要になってきたため、パーレバンデ地域のデータを追加取得し、温度-圧力-時間履歴を制約した。そのため、リュツォ・ホルム岩体やタトラ山地の塩素流体活動の痕跡探しが後回しになっている。しかし全体としてはおおむね計画したペース通りに研究が進んでいると判断できる。
リュツォ・ホルム岩体・タトラ山地などにおける塩素に富む流体活動の痕跡探しを引き続き重点的に行う。また、リュツォ・ホルム岩体における含ホウ素流体活動の痕跡を残した試料を用いて、SIMSによるホウ素同位体比分析の準備を進め、エジンバラ大学で分析を実施する。
次年度以降に計画している、エジンバラ大学におけるホウ素同位体比測定の実施に必要な分析経費が、円安の進行に伴い不足する見込みとなったため、物品費の使用(ノートパソコン・ソフト類の購入)を見合わせたことによる。
次年度以降のエジンバラ大学におけるホウ素同位体比測定経費の一部として使用する。
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http://www.kueps.kyoto-u.ac.jp/~web-pet/kawakami_j.htm