本研究は、地球形成直後の時代である冥王代初期に地球内部で起こり得たメルト生成プロセスの条件を、Sm-Nd同位体系を制約条件として求め、その条件で生成するメルトの主成分元素組成と密度を高圧実験とモデル計算で明らかにすることを目的としている。その結果をもとに、地球全体の平均組成として仮定されているCIコンドライト組成と、現在の地球のマントルの平均組成の推定値とのズレを説明するために想定されているhidden reservoirと呼ばれる隠れたリザーバーが、実際に存在し得たのか、存在したとしたらどういう条件で生成され得たのか、を明らかにすることが最終目標である。 昨年度までに、Sm-Nd同位体系のモデル計算により、コンドライトと現在のマントルとの間のNd同位体組成の差を補完できる組成を持つリザーバー(Early Enriched Reservoir: EER=hidden reservoirの候補)の生成条件(温度・圧力・部分融解度)が、7GPa・1750℃・部分融解度2%以下であることを明らかにした。そして、この条件におけるカンラン岩の高温高圧融解実験を川井型マルチアンビル高圧発生装置を用いて行い、EERの候補となるメルトの主成分元素組成を決定した。得られたメルトの密度をモデル計算によって求めた結果、初期地球のマントル上部で微小な部分融解度で生成されたメルトは、マントル中を上昇して原始地殻を形成すること、その原始地殻がEERすなわちhidden reservoirとなった可能性が高いことが明らかとなった。今年度は、補足的なモデル計算を行ったうえで、これらの結果を国際学会にて発表したほか、オープンアクセスの国際学術誌に論文を投稿し掲載された。
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