研究課題/領域番号 |
26400515
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
留岡 和重 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00201658)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | コンドライト / コンドリュール / 隕石母天体 / 流動化 / 水質変成 / 熱変成 / 角れき岩化 / 電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
炭素質コンドライトは,主にコンドリュールと難揮発性包有物,そしてそれらの間を埋める細粒のマトリックスからなる。この組織は,基本的には原始太陽系星雲物質が直接集積して形成されたと,過去半世紀以上にわたって考えられてきた。
我々は電子顕微鏡を用いて,モコイア隕石の直径400 μm以上の全てのコンドリュールと包有物,そしてそれらを囲むリム(以下コンドリュール/リムと総称)を詳しく調べた(Tomeoka and Ohnishi, 2010, 2014, GCA)。その結果,コンドリュール/リムは様々な程度の水質変成,熱変成を受けていることがわかった。我々の観察結果は,これらの変成は隕石母天体内で起こったことを示している。一方,驚くべきことに,コンドリュール/リムの間を埋めるマトリックスは,それらの変成が及んだ痕跡を示さない。これらの結果は,コンドリュール/リムの変成が現在の隕石の設定で起こったのではないことを意味している。以上の結果にもとづいて,我々は,コンドリュール/リムは,実は隕石母天体内のホスト隕石があった場所とは異なる領域からやってきた破片(クラスト)だというモデルを提出した。
この結果と解釈は,モコイア隕石全体の岩相形成に関して次のような重要な問題を提起している。それは,この隕石の岩相形成が原始太陽系星雲物質の直接集積でも,隕石母天体上の衝突による角礫岩化作用でも説明できないということである。我々は,モコイア隕石の岩相は,母天体内の異なる領域で破砕作用により分離したコンドリュール/リムとマトリックス粒子が,流動状態で運搬され,混合し,集積し,岩石化することによって形成されたというモデルを提出した(Tomeoka and Ohnishi, 2015, GCA)。おそらくこのプロセスは,母天体内の複数の異なる領域で,循環的に何度も繰り返されたのではないかと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は,コンドライト隕石の詳細な観察・分析に基づいて,従来のコンドライト岩相の原始星雲集積モデルが正しいかどうかを徹底的に検証し,コンドライト岩相の真の形成過程を明らかにすることである。「研究実績の概要」に記したモデルは,代表者らのコンドライト隕石に関するこれまでの一連の研究の集大成と位置づけられるものであり,従来の「原始星雲集積説」に根本的な再検討を迫るものである。このモデルは,学術誌Geochimica et Cosmochimica Actaに論文として発表し,また国際隕石学会,鉱物科学会,惑星科学会において口頭発表した。さらに,本研究に関連する研究成果を,国際隕石学会(2件),地球惑星科学連合大会(4件)において発表した。本研究の目的の重要な部分がこれによって達成されたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
「母天体内の流動化作用によるコンドリュール再配置モデル」の検証と確立:このモデルは,代表者らの,最近の3つのコンドライト隕石に関する一連の研究(Tomeoka and Ohnishi, 2010, 2011, 2014; Takayama and Tomeoka, 2012; Matsumoto et al., 2014;いずれもGeochim. Cosmochim. Actaに発表)に基づくものである。我々の次なる目標は,このモデルがさらに他の多くの隕石においても成り立つかどうかを検証し,コンドライトに普遍的に成り立つかどうかを明らかにすることである。本年度は,我々が,本モデルが適用できる可能性が高いと考えている他の複数のコンドライト隕石について,さらに分析電子顕微鏡,電子線マイクロローブ分析装置を用いて観察・分析を行う。
ネフェリンのコンドライト母天体内における形成の実験的解明:本研究では,さらに,コンドライトの水質・熱変成プロセスおよびその条件を明らかにすることを目的に,水熱合成装置,加熱実験装置を用いて隕石変成の再現実験を行っている。本年度は,特にNaゼオライトからネフェリンへの加熱実験,示差熱分析に大きな進展が見られた。最近の我々のニンチャン隕石の研究(Matsumoto et al., 2014, GCA)によって,ネフェリンの成因は,上述のモデルを検証する上でも重要な情報を与える可能性が高いことがわかってきた。本年度は,これまでの実験の成果をまとめ,発表することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,上述したように,計画した研究に重要な進展が見られたので,その成果のまとめと発表にかなりの時間とエネルギーを注いだ。電子顕微鏡実験では既に購入した器具,薬品,試料を主に使用し,隕石の水熱変成を模擬した実験では主に既設の加熱装置,熱量分析計を用いた。そのため,それほど多くの設備費,消耗品費を必要としなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度も,C隕石のSEM,TEM/STEM,EPMA,SR-XRDによる観察・分析,そして水熱実験・加熱実験を行うために必要な器具,材料,化学薬品の購入,機器使用料に充てる。また論文発表,学会等における成果発表にも充てる予定である。
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