本研究では、第一原理分子動力学シミュレーションを行うことにより、計算条件の決定や精度の検証を行ってきた。高温高圧下において氷は超イオン状態をとる。すなわち酸素は結晶状態を維持するが、水素は液体のような振る舞いをみせる。そのため、第一原理熱力学積分法を行う上で酸素は固体の、また水素は液体の参照状態をとる必要があるため、そのアルゴリズムを開発した。 本年度は、定量的な結果を得るために大規模な計算を必要とすることが判明したため、スーパーコンピューターを用いて研究を行う必要があり、新たにポスト「京」萌芽的課題プロジェクトに参加した。本研究で開発したプログラムを京コンピューター上でコンパイルし動作環境を整え、チューニングを行った。また、実際に第一原理分子動力学シミュレーションを行った。 さらに本理論計算の比較対照のための実験データが限られているため、相補的な計算として第一原理2相分子動力学計算も追加して行った。また、氷VIII相とX相の弾性定数の決定を第一原理計算法を用いて行った。本研究の結果、これら氷VIII相とX相の弾性定数の値とその圧力依存性は顕著な違いを見せることが判明した。この結果は、相境界を決定する上で有用な情報となる。また氷VII相のブリルアン散乱実験データと比較することにより、氷VII相の水素結合対称化が30万気圧から110万気圧までの広い圧力範囲において徐々に起きている可能性を指摘し、国際誌に発表を行った。
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